ドアノブさわるとバチッと静電気 なぜ起きるの?
スーちゃん冬が近づいてだんだんと寒くなってきたよ。金属でできたドアノブを手でさわったら、静電気でバチッときたよ。少し痛かった。むしむしした夏に少なくて、乾燥している冬によく起きるのも不思議だね。どうして手の先から電気が流れたのかな。
体にたまった電気が一気に流れるんだ
森羅万象博士より静電気でバチッとくるのは、体にたまっていた電気がドアノブに逃げるからだよ。金属でできたノブは電気が流れやすい。ノブに手が触れたとき、電気が一気に流れて少し痛く感じるよ。
電気はとても強いけど、流れるのはほんの一瞬。けがはしない。電気が流れにくいものに触れても、電気は弱々しく流れるだけだから感じないんだ。
それにしても、どうして体に電気がたまるのだろうね。知らないうちに電気をため込んでいるんだよ。例えば、靴をはいてカーペットの上を歩く。このとき、靴の裏とカーペットが何度もこすれるんだ。くっついたり離れたりする動きを繰り返して、だんだんと体に電気がたまっていく。この電気が一気に逃げると、静電気でバチッとくるんだね。一度に電気が流れてバチッとする現象を放電というよ。
電気が発生するのは材料の違いが影響しているよ。材料によってマイナスの電気の居心地の良さが違うんだ。ゴムでできた靴の裏と、ナイロン繊維(せんい)を編(あ)んだカーペットを考えてみるよ。
ゴムはナイロンに比べて、マイナスの電気を引きよせる力が強い。ゴムとナイロンは、最初はマイナスとプラスの電気を同じ量だけもっている。この2つがくっつくと、引きよせる力が強いゴムのほうに、マイナスの電気が移動するよ。
この状態のままでゴムとナイロンが離れると、マイナスの電気がどこにも移動できなくなる。ゴムにはマイナスの電気、ナイロンにはプラスの電気がたまるんだ。ゴムの靴を履いていた体にマイナスの電気がたまるよね。このままドアのノブをさわると、指先からマイナスの電気がドアノブに流れるよ。
体にプラスの電気がたまるときもあるよ。ポリプロピレンはゴムよりマイナスの電気を引き寄せやすい性質がある。ポリプロピレンの繊維でできたカーペットの上を歩くと、人間にはプラスの電気がたまるようになるんだ。そのほかにも、服どうしがこすれて電気がたまることもあるよ。
電気がたまる様子を身近な文房具を使って体験できるよ。ノートに文字を書くときに使う下敷きで髪をこすってみると、下敷きと髪に電気がたまる。プラスとマイナスの力で引きよせ合って、髪が下敷きに引っぱられるよ。
それにしても、なぜ寒くて乾燥している冬の時期にバチッとくるのだろうね。夏は、むしむししていて、たくさん汗もかく。体の表面には、水分がとても多くなる。水は電気を逃がしやすい性質があるから、体になかなか電気がたまりにくくなるんだ。カーペットの表面にも水蒸気がついて電気があまりたまらないんだ。
電気がたまらないようにすれば、冬でも静電気がおきにくくなるよ。車を降りるときに、金属の部分にさわってバチッとくることがある。椅子と服がこすれてたまった電気が原因のひとつだ。
金属の部分にさわりながら少しずつ立ち上がると、電気を逃がしながら椅子から離れられる。電気の量を減らせて静電気が起きにくくなるんだ。
静電気は嫌われ者だけど、普段使っている機械ではずいぶん活躍しているよ。授業で配るプリントを印刷するコピー機は、インクの粉を静電気で文字の形につけるんだ。
まず、画像を読み取る装置で文字などの形を写し取る。文字に沿ってマイナスの電気をためる。プラスの電気をためたインクの粉を振りかけると、マイナスの電気がある場所だけにインクの粉が残る。文字の形にインクの粉が並び、紙をのせると文字や絵をコピーできるよ。
工場から出る煙をきれいにする装置の一部にも静電気が使われているよ。細かいゴミを静電気の力で引きよせ、外に出ないようにしている。フィルターと組み合わせて使うことが多いよ。静電気は身近なところに役立っているんだね。
雷も実は大きな静電気
博士からひとこと雷は静電気がとても強くなる自然現象だ。雲の中には、たくさんの水の粒が漂っている。この粒が風の力でこすれたり分離したりすると、雲の中にだんだんと電気がたまる。地面に近い下側はマイナス、上側はプラスになりやすい。
空気は電気をほとんど通さないが、雷のようにとても強い電気は耐えきれずに通してしまう。雲と地面や、雲と雲の間に一気に電気が流れると、激しい雷鳴(らいめい)と稲妻(いなずま)が現れる。
静電気が思わぬ事故の原因になることもある。石油を運ぶ大型船「オイルタンカー」やパイプラインで静電気が起きると、引火して爆発を引き起こす原因になる。
オイルタンカーに積んだ容器が揺れたり、管の中を石油が通り抜けたりすると、容器や管の内部と石油が何度もくっついたり離れたりして、静電気がたまってしまう。静電気がたまらないようにする工夫で、事故を防いでいる。
(山野芳昭・千葉大学名誉教授に取材しました)
[日本経済新聞夕刊2017年10月28日付]
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