ソニーの超小型ICレコーダー やりすぎ高機能に感嘆
戸田覚のPC進化論
どんな製品でも、そこそこの価格で、実用に十分な機能・性能を備えるものが最もコストパフォーマンスが高い。だが、時には「それだけではつまらない」と思ってしまう。そこで、ソニーから登場した「ICD-TX800」である。リモコンで操作できる超小型ステレオICレコーダーなのだが、誤解を恐れずに言うなら、この製品の「技術の無駄遣い感」がたまらない。
ウェブの製品紹介ページには「さりげなく自然に録音できる新形状」と書かれている。「いや、スマホでもさりげなく録音できるだろう」などと言う人もいるかもしれないが、会議や取引先との打ち合わせなどで机の上にスマホを置いておくのははばかられることもある。スマホを取り出せない場面でこそICD-TX800の出番なのだ。
リモコンで操作できるので、例えば学校で、教壇の近くの目立たないところにICD-TX800を置いておき、授業が始まったら、自分の席から操作して録音を始めるといった使い方もできる。
そもそもリモコンは必要なのか?
ICD-TX800の本体とリモコンは、それぞれ38ミリ角というコンパクトなつくり。本体には録音ボタンと停止ボタンしかない。設定などはリモコンで操作することになるが、目の前に本体を置いている限りは本体の液晶を見ながらリモコンを使えばいいだけなので、普通のICレコーダーとほとんど変わらない。向き合った机などで相手の近くにICレコーダーを置きたい場合も、手を伸ばすことなく、手のひらに収めたリモコンでオン/オフができるのでなかなか便利だ。
ところがだ。本体をやや離れた位置に置いて「さりげなく」録音しようとすると、やや困ったことになる。というのも、録音できているかどうかが分かりにくいのだ。本体の赤いランプで動作の確認はできるのだが、それなりに離れた場所から確認できるほどランプが大きくない。これはどうみても、リモコン側に液晶を装着してほしかったところだ。
手元で録音できているか確認したい場合は、スマホにソニーのICレコーダー用のリモートコントロール用アプリ「REC Remote」をインストールすれば、スマホをリモコン代わりに利用できる。「それならばもう、付属のリモコンはいらないじゃないか」という気もする。ただ、スマホの持ち込みが禁止されている場所などではリモコンは便利なのだろう。
再生はイヤホンのみだが音質は良好
ICD-TX800の本体にスピーカーはなく、再生にはイヤホンが必要だ。しかも本体の端子はmicroUSBのみなので、専用のアダプターを利用することになる。本体だけで再生できないのはちょっと残念だが、サイズを考えれば致し方ないだろう。USBケーブルでパソコンに接続すれば、再生やファイルのコピーなども可能。パソコン用のアプリ「Sound Organizer 2」が本体メモリーに同梱されているので、それを利用して音声ファイルの編集もできる。
ICD-TX800は高性能デジタルマイクを採用しており、マイク内部で音声をデジタル信号に変換するため、再生時の音質は悪くない。思ったよりクリアに録音できていて実用性はバッチリだ。
また、録音の際には入力音圧レベルを自動で判断して、マイク感度を自動調整するという。声が大きすぎたり、小さすぎたりすることがないように工夫されているのだ。「ポケット」「会議」「講演」「インタビュー」などの「シーンセレクト設定」によって、フォーカスや感度を調節できる。こんなに小さくてもとても本格的なのだ。
小道具としての能力と演出は文句なし
ICD-TX800は超小型ボディーだけに、性能はさほどでもないだろうと見くびっていたが、実際は文句の付けようがないほど充実していた。内蔵メモリーは何と16GBで、MP3(192kbps)形式のファイルなら159時間の録音が可能だ。
また、本体は充電式となっており、ファイル形式にもよるが通常の録音で12~15時間、スマホアプリの「REC Remote」利用時でも6時間駆動する。別売のAC電源「AC-UD20」も利用可能だ。ちなみにリモコンにはボタン電池を使用する。
価格はソニーストアで1万9880円と、ICレコーダーとしてはかなり高価だが、それでいい。スマホで録音できる以上、万人向けの製品ではないからだ。合皮を張り付けた高級感のあるキャリングケースが付いてくるなど、価格なりの演出もなされている。欲を言うならボディーを金属にしてさらに高級感を高めてほしかった。
超小型ボディーに充実の機能を詰め込んだICD-TX800は、明確な用途がなくてもただ持っておきたくなる物欲をそそる製品だ。「そんな小さなレコーダーで録音できるのですか!」と、周囲の人から驚かれるだけでうれしくなってしまう……そんなご同輩にお薦めしたい。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2017年10月16日付の記事を再構成]
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