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ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している街を離れて銀座まで足を延ばした。銀座4丁目交差点にほど近い老舗書店、教文館だ。東京の中心繁華街だけに多様な顧客が足を向けるが、周辺に立地する大企業も多く、ビジネス書の需要も大きい。最近の売れ筋は未来予測本と働き方の関連書といい、隣接する八重洲地区の売れ筋と似た傾向だ。ところが、先週一番の売れ行きだったのは、経営学者が日本近代の歴史をイノベーションの視点からとらえ直した一冊だった。

銀座の読者は歴史好き?

その本は米倉誠一郎『イノベーターたちの日本史』(東洋経済新報社)。4月の刊行で、著名な学者の本だけに出版直後は新聞や雑誌の書評で取り上げられ、話題になった。その本が根強く売れているのだという。今は歴史書の棚前の平台に幾分ひっそりと置かれているが、「先週まではメインの平台に並べていて、手にとっていくお客さんが多かった」と、次長でフロアマネージャーの伊藤豊さんは話す。銀座の読者は歴史好きなようだ。

「近年、日本人が創造的(クリエイティブ)でないという議論をよく聞く」「本当にそうだろうか」と、著者は説き起こす。この問題意識の矛先を、幕末から明治、昭和初期に至る近代化過程に突き刺して回答を求めたのが本書だ。カギになるのは「創造的対応」という概念。イノベーションの父とも呼ばれる経済学者、シュンペーターの言葉だ。

「日本の近代は西欧先進国から押し寄せる津波のような外生的挑戦や刺激に、いかに創造的に対応していくかという歴史だった」と著者は言う。その歴史を描くのに、著者は創造的対応をした個人に焦点を当てる。まず登場するのが、西洋流砲術を創始し、貿易立国と西洋の先進技術の移入にこそ活路があると主張し、実践した砲術家の高島秋帆。士族たちの創造的対応では、小野田セメントを興した笠井順八、科学者たちの創造的対応では、理化学研究所を立ち上げた高峰譲吉という具合に、歴史の陰に埋もれがちの人物を掘り起こしてくる。彼らこそが表題にある「イノベーター」であり、そのイノベーティブな対応に著者は徹底して光を当てる。

「武士の商法」はベンチャーの先駆け?

中でも旧武士階級という身分を金禄公債で買い入れ、さらにその公債を産業資本に転換するという明治政府の創造的対応と、これを受けて産業資本家へと自らを変貌させていった士族、笠井順八の軌跡を追った3、4章の記述に著者の迫力がこもる。「武士の商法」などと否定的な見方もされる士族授産政策だが、「士族たちは『最初の失敗』というパイオニア的な役割を果たし、今日風にいえば、ベンチャービジネスの促進に貢献した」と著者は位置づける。

歴史を扱ってはいるが、鎖国から開国へと打って出た当時の状況がグローバリズムの進展に向かい合う今日の状況と重なり合う。既得権と新しいビジネスがせめぎ合うところも似ている。起業や会社の変革など、ビジネスの現場でイノベーションを起こすべく苦闘する多くの人にとって、たくさんのヒントを与えてくれる本だ。

予測本の新刊も上位に

それでは、先週のベスト5を見ていこう。

(1)イノベーターたちの日本史米倉誠一郎著(東洋経済新報社)
(2)役員になれる人の「日経新聞」読み方の流儀田中慎一著(明日香出版社)
(3)2018長谷川慶太郎の大局を読む長谷川慶太郎著(徳間書店)
(4)さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版トム・ラス著(日本経済新聞出版社)
(5)ついにあなたの賃金上昇が始まる! 高橋洋一著(悟空出版)

(教文館、2017年10月15~21日)

1位がここで紹介した本。2位は、財務戦略コンサルタントが日本経済新聞を読んで経済感覚、数字力、論理的思考を磨く方法を説いた本だ。3位は毎年出る長谷川氏の世界経済の予測本。これは著名著者のものだが、「『2050年の技術』や『未来の年表』など、将来を見通す本の売れ行きが一貫していい」と伊藤さんは話す。4位は、この春に新版が出た自分の強みを見つける本。5位には元財務官僚による来年の経済見通しの本だ。

(水柿武志)

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