音楽、特にポップスは約5分で完結するので、作る際も口ずさみながら容易に確認できます。コンサートは私がいちばん楽しめると思う長さの2時間15分の中に、どの曲をどう並べるかを考えるのが軸で、ゼロから組み立てるわけではありません。でも、小説は登場人物の細かなキャラクター設定やストーリーの展開など、すべて自分一人で考えなければいけない。

それに私は小説の書き方、プロットを立てることすら知らず、いきなり冒頭から書き始めてしまった。着地点が見えないまま走り出したせいか、100ページを書いたあたりで「自己嫌悪」という負のスパイラルから抜け出せなくなりました。あとがきにも寄せましたが、「なんて才能がないんだろう。こんなダメな文章を世に出すなんて」と思うと思考がストップしてしまった。実際に、担当してくれた編集者に幾度か「これは世に出す価値がない」とこぼしたこともあります。その度に「そんなことはない。これは人の心に届くものだよ」と励ましてくれたから完成できた。感謝していますし、こうやって今晴れやかな気分で話せるのは気持ちがいいものですね(笑)。

「約5分で完結するポップスと違い、小説は私の想像しうる時間軸を超えていました」と笑う

音楽と異なる小説の魅力

今年は国内のドームツアー後に海外ツアーもあり、私事ですが、妊娠も分かりました。今年の初めに編集者から「今年こそ出しましょう」と言われていたので、「やることだらけで、どうしよう」ってパニックになるほど(笑)。

でも、帰国後はずっと『ふたご』にかかりきりになれた。バンドには本当にたくさんの時間をもらいました。最後の1カ月はとくに。私1人のプロジェクトにそこまで時間をもらうのは、デビューして初めてだったんです。考えてみると、『ふたご』はバンドメンバーがいないところで作り上げた、初めての作品なんですよ。今までは自分で作詞作曲しても、そこには必ずメンバーも参加していましたから。

小説は、自分一人でゼロから書き上げた、プロジェクト。少し自分に自信が持てるようになりましたし、文章を書くことで私自身も救われている部分があると感じます。

音楽は5分間で確認でき、それが魅力でもありますが、小説は読んでくれる人の時間をたくさんもらいます。この『ふたご』を少なくとも100回は読み返しましたが、最低でも3~4時間かかった。それに責任を感じつつ、同時に音楽とは違った魅力だなとも思いました。

次作ですか? 機会があれば書いてみたいですね。方眼ノートのストックはたくさんあるので、そういう意味では準備万全です(笑)。

藤崎彩織
 1986年8月13日、大阪生まれの東京育ち。2011年に4人組バンド、SEKAI NO OWARIのメンバーSaoriとしてメジャーデビュー。担当楽器はピアノ。ヒット曲『RPG』の作詞をはじめ、作詞作曲を手がけるほか、ライブの演出も担当。2017年1月に俳優の池田大と結婚、8月には妊娠を発表した。SEKAI NO OWARIとして2018年4月7日の熊本県農業公園カントリーパークを皮切りに野外ツアー「INSOMNIA TRAIN」を開催する。
文芸春秋 本体価格1450円+税

『ふたご』

いつも独りぼっちでピアノだけが友達だった中学生の夏子と、不良っぽく見えるけれども人一倍感受性の強い、高校生の月島。いつもめちゃくちゃな行動で困惑させる月島に引かれる夏子は、誘われるままにバンドに入り、彼の仲間と共同生活を行うことになるが……。

(文 橘川有子、写真 藤本和史)