LVMH傘下ゼニス、「機械式時計で342年ぶり新発明」
LVMHグループ時計部門トップ、ビバー氏に聞く
仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)傘下のスイス時計の老舗、ゼニスが機械式時計の精度を大幅に高める駆動装置(ムーブメント)を開発した。一定の速さで時を刻む調速機構に、従来のテンプ(はずみ車)とひげぜんまい(金属コイル)を使った機構に代わり、単結晶シリコン製の新型オシレーター(発振器)を採用した。従来に比べて10倍の精度で、誤差を1日平均0.3秒に抑えた。LVMHグループ時計部門プレジデント、ジャン-クロード・ビバー氏に開発の狙いなどを聞いた。
――機械式時計のための新機構を開発しました。
「非常に大きな革命的な技術だと考えています。テンプとひげぜんまいによる調速機構が1675年に発明されてから、342年ぶりとなる新たな機構です。2017年の今日に至るまで、全ての機械式時計が1675年に発明されたシステムを採用していました。これまでの300年以上の間、新機構の開発に挑戦した人はたくさんいたと思いますが、ゼニスが初めて開発に成功しました」
「全く異なる機構としては、(発振器に水晶を使う)クオーツ式が発明されましたが、これは電池を使うので機械式とは違う分野です」
これまで存在する時計の中でも最も正確
「今回の機構は25年前には実現し得なかったものです。シリコン素材の開発や数式的な原理の証明が必要でした」
「新機構には大きな特徴があります。まず摩擦がありません。このため(この機構については)注油の必要がありません。シリコン素材の採用によって、温度や磁気による影響もありません。そして最大の特徴は、これまで存在してきた時計の中でも最も正しい精度を誇っています」
「通常の機械式時計は、60時間を経過すると精度が落ちてきます。調速機構にぜんまいを使っているためです。これに対して、私たちの新機構は(ぜんまいを使わないため)精度が24時間全く変わりません」
――なぜ開発に取り組んだのですか
「常に改革者であるということがゼニスの存在意義だと考えているからです。伝統的な時計の製法をそのまま続けるということではなく、改革を遂げて新しいものを生み出し、未来をつくり出していくということが、ゼニスが考えているあるべき姿であり、存在意義なので、今回の革新的な開発に取り組みました」
「開発には4年ほどかかりました。13年の終わりにこのプロジェクトはスタートしました。開発責任者がアイデアを提案してきたときに、すぐやろうと決めました」
ゼニスは改革の時期にある
――今後の日本市場での戦略は。
「基本的には戦略を市場ごとに変えるつもりはないので、日本も全世界と同じようなかたちで展開を考えています。ただ、日本は非常に重要な市場だと考えているので、商品の供給などで優先していく市場です」
――日本での店舗拡大は考えていませんか。
「今はむしろ販売拠点を減らす方向で考えています。ここ1、2年のうちにブティックを増やそうという考えはありません。ただ、将来的にはあと2店舗ほどのブティックを日本で展開しようと考えています」
「現在、ゼニスとしては内部的な組織などを含めて、改革の時期にあると考えています。その一環として、販売拠点の数は減らします。ただ、残す拠点については、今まで以上に深い注意を払って展開していこうと考えています」
――今後のゼニスの方向性について、どのように考えていますか。
「スイスの時計産業において、未来を示せる存在になりたいと考えています。例えば、今回の新機構がその一つであり、(17年3月に発売した腕時計)『デファイ エル・プリメロ21』に搭載した100分の1秒単位の表示機能もその一つです」
各ブランドが持つDNAをより深める
――LVMHグループ時計部門にはゼニスのほか、タグ・ホイヤーやウブロがあります。各ブランドをどのように特徴づけていくのですか。
「全体としてはそれぞれのブランドがまずオーバーラップすることがないように、各ブランドが持つDNAをより深め、高めていく戦略を考えています。それぞれがシナジー(相乗効果)を生み出すような手法を見いだそうと考えていますが、あくまでそれぞれのDNAを傷つけず、重なることのないように、それぞれの方向性を決めていこうと思っています」
――各ブランドの位置づけは。
「ウブロは『アート・オブ・フュージョン(異なる素材やアイデアの融合)』、ゼニスは『フューチャー・オブ・トラディション(伝統における革新的な未来)』というのが方向性です。タグ・ホイヤーは『アフォーダブル』、購入しやすい価格帯でのリーダーシップをとるブランド、という位置づけを考えています」
――スイス高級時計メーカーとしては後発のウブロを率いて売上高を10倍近くに伸ばすなど、ビバー氏は時計産業のカリスマ経営者として知られます。そのパワーの源は何ですか。
「私の秘密は情熱ですね。情熱は消えるものではなく、ずっと続いていくものなのです。もちろん体は疲れることはありますが、情熱を抱いている限り、心が疲れるということはありません。だからリタイアすることなく仕事を続けていますし、その情熱が途絶えることはありません」
(聞き手は平片均也)
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