津田大介 最新VR体験、没入感を高める工夫に驚き
仮想現実(VR)技術の応用がさまざまなビジネスに広がっている。だが一般の人たちにとって身近なのは、やはりエンターテインメントのコンテンツ。そこで津田大介氏がバンダイナムコが新宿にオープンしたエンターテインメント施設「VR ZONE SHINJUKU」を訪ね、実際にアクティビティーを試してみた。
新宿は旗艦、国内外にも展開
VR ZONE SHINJUKUがあるのは新宿歌舞伎町の西端、かつて映画館のミラノ座などがあった場所だ。再開発が始まるまでの期限付き営業で、2019年3月までに100万人の来場者を見込んでいる。バンダイナムコによれば、週末などはとても混雑し、一つのアクティビティーで30分から40分並ぶこともある。館内に3時間くらい滞在するお客さんが多く、なかには飲食も含めて6時間も過ごす人もいるという。
15種類のアクティビティーを集めた新宿店はフラッグシップ店という位置づけ。すでにオープンしている英国『VR ZONE LONDON』を皮切りに、バンダイナムコでは2018年3月までに、2~4種類のアクティビティーに絞った「VR ZONE PORTAL」を国内外で20店舗以上オープンする予定だという。
イチ押しは「マリオカートVR」
今回、僕が体験できたアクティビティーは「マリオカート アーケードグランプリVR」「極限度胸試し ハネチャリ」「釣りVR GIJIESTA」「ドラゴンボールVR 秘伝かめはめ波」という4種類だった。動画も掲載する。見ている世界は見えないが、どれだけVRの世界に真剣に入り込んでいるかは伝わるのではないか(アクティビティーの効果音や周囲の音が大きめなので、再生時の音量にはご注意を)。
今回体験した4つのアクティビティーの中で一番面白かったのは、「マリオカート アーケードグランプリVR」だ。アーケードで体験したことがなくても、マリオはほとんどの人が何かしらのゲームのハードで遊んだ経験があるだろう。その世界に入るのはとても楽しい体験だった。
ヘッドマウントディスプレー(HMD)を着けているので、後方の様子がバックミラーに映るのではなく、実際に振り返って見ることができる。ゲームセンターにあるガチのクルマのシミュレーションもいいが、このマリオカートも相当いい。崖からジャンプして落ちていく感覚など、ジェットコースターに乗っているような怖さを感じた。前方から飛んでくるアイテムを手で取って投げるというギミックも面白かった(動画の途中で、ハンドルから手を離しているのは、アイテムをつかもうとしているからだ)。
最初にHMDを着けたときはVR映像のドットが粗くて現実感が薄かったのだが、すぐに脳がだまされてしまった。ゲームへの没入感が深く、しかも没入してしまうまでのスピードがとても速い。
身体的負荷がリアリティーを高める!?
ゲームへの没入感という点で、さらにレベルが高かったのが「極限度胸試し ハネチャリ」だ。足こぎグライダーに乗って断崖絶壁を飛び降り、はるかかなたの高所にある城のゴールを目指すというアクティビティーで、1990年代にナムコ(後のバンダイナムコ)が制作・販売したアーケードゲーム「プロップサイクル」を下敷きにしているという。
マリオカートで使うのは腕だけだったが、「ハネチャリ」ではハンドル操作に加えて自転車をこぐという身体的負荷が加わるため、没入するまでのスピードがさらに速かった。ディスプレーの内部には『天空の城ラピュタ』のような雄大な自然のなかを飛ぶ世界観が映し出されている。4人同時プレーで競ったところ、見事1位でゴールすることができた(動画を見ると、背後に設置されたディスプレーに、プレーヤーが見ている映像が映し出されているのがわかる)。
ドラゴンボールの世界に入り込む
人気アニメの世界を体験できるのが「ドラゴンボールVR 秘伝かめはめ波」だ。自分が選んだキャラクターが修業をつけてくれて、基本操作を覚えるようになっている(僕の師匠はベジータだった)。
右腰に回した両手の間に気を集めると、徐々に手に着けたグローブや床が揺れ、前方から風も吹いてきて、気がたまっていくような感覚になる。このような演出も重要なのだろう。気が十分にたまったところで、「かー、めー、はー、めー、はー!」の掛け声とともに打つ。ドラゴンボール好きにはたまらない体験だろう。僕もなかなかうまく打てたようで、バンダイナムコエンターテインメント広報の方からお褒めにあずかった。
地味だが楽しい釣りVR
VR ZONE SHINJUKUのアクティビティはアニメやゲームのような世界で遊ぶモノばかりではない。「釣りVR GIJIESTA」は、2人同時にプレーして釣果を競うという趣向だ。今回体験したVRアクティビティの中で、マリオカートの次に面白かったのは意外にもこれだった。渋いのだが、なかなかよくできている。
僕の釣り体験は小学生のころにさかのぼる。当時は全然釣れなかったのだが、昨年、たまたま船に乗って海釣りをして、けっこう釣れたという実体験をしていた。そのため、針にヒットする感触や、ヒットしてもリールを速く巻きすぎると逃げてしまうという感覚のリアルさもよくわかった。動画では、手前のディスプレーに映し出された映像と僕の動きが連動しているので、イメージがつかめるのではないか。
VRのアクティビティーというと、非現実的な世界を楽しむという印象が強いが、3DCGでいかにリアルな世界を再現するかという方向性もあるということだろう。
HMDを使わないアクティビティも
VR ZONE SHINJUKUでユニークだと感じたのは、HMDをつけないアクティビティーも用意していることだ。僕が体験した「ナイアガラドロップ」というアクティビティーは、滑り台のような形状の装置で高さ7メートルまでつり上げられ、最大傾斜84度という坂を滑り落ちる。プロジェクションマッピングで滝が描かれているので、滝つぼに飛び込む感覚を楽しめるわけだ(僕は高所恐怖症なので、楽しめなかったが)。
「仮想現実」という意味では「マリオカートVR」も「ナイアガラドロップ」も共通するわけだが、実際に両方を体験してみると、この2つは大きく異なると感じた。こんなところにもVRを活用するヒントが隠されているのかもしれない。
VRの可能性をリアルに実感
実際にさまざまなアクティビティを体験してみて、VRエンターテインメントの間口の広さを感じた。アニメやゲームの世界に入り込むという方向性もあれば、釣りのようにリアルを追求する方向性もある。そこにさまざまな双方向性を掛け合わせれば、魅力的なコンテンツが生まれるだろう。
BtoBの分野では、難度の高い外科手術のシミュレーションなど医療分野でVRの応用が進んでいるし、高所作業のトレーニングなどにも利用されていると聞く。こうしたエンターテインメントを体験することで、VRの持つさまざまな可能性を想像することができる。Facebookも普及版VR用ゴーグル端末を2018年はじめに発売すると発表した。ますますこの分野から目が離せなくなりそうだ。
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
(編集協力 島田恵寿=コンテクスト、写真 佐藤久)
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