素材業界、男社会に風穴 地道に実績を積んで「待つ」

2017/10/17

一般事務から総合職へ 太平洋セメントの緑川和代さん

「やりたいことをやらせてもらうには待つことも大事」。セメント大手、太平洋セメント東北支店の業務部課長、緑川和代さん(45)は女性ばかりの一般事務職から総合職への転換組だ。

太平洋セメントの埼玉工場で総務課長を務めた緑川和代さん

30歳を過ぎた頃、若手や中堅社員の研修を企画する人事部門で仕事の領域を広げたいと希望した。地域限定の事務職の女性が全国異動できる総合職へ転向した実績はなかったが、総合職だけが参加する会議にも「呼んでほしい」と声をあげる積極社員だった。しかし痛い思い出がある。

他部の部長に書類を渡しに行った時だ。「女性が何しに来たの」と相手にされなかった。「えっ、資料を渡すだけなのに」。所属部の課長に口添えをしてもらい、ようやく資料を受け取ってもらった。

「実績を積もう。誰もが受け入れてくれるまで」。管理職を含めた社内教育体系の再構築のチームに入った。全社で抜本改革する大型プロジェクトだ。人事部の部長や課長らと1年がかりで役員から主要事業部の部長級まで聞き取り、現状何が足りないのか、どうすれば意義のある研修を構築できるのかを探った。

地道で熱心な仕事ぶりが評価されたのだろう。14年、総合職への転換が認められた。「受け入れられようと焦るより、周りが自然と受け入れたくなるような存在になることが大切だと実感しています」

住友化学唯一の女性役員 広岡敦子さん

「大きな決断を下すのは男性のほうが得意だと昔は思っていた。でも女性にはその訓練が足りないだけだと感じている」。住友化学の広岡敦子執行役員は外資の化学メーカーで20年超勤め、06年に住友化学へ転職した。同社で唯一の女性役員で、大学2年生の長男がいる母親でもある。

転職のきっかけは、同社が展開しているアフリカ諸国でのマラリアの殺虫剤を練り込んだ蚊帳事業に携わりたかったから。10年に部長に昇進、16年度からは殺虫剤や飼料添加物などを扱う事業部担当の執行役員に就任した。

追われるように大きな決断を何度も下してきた。受注が確約していない段階で取引額が億円単位の商品を製造するか否か。重要顧客からの苦情対応で海外へ緊急渡航すべきか。部の責任をとるため「首を洗って待っていた」ことも。役員になってからは担当事業部の大型投資プロジェクトを決定する重責を担う。

広岡さんは現代の働く女性を取り巻く環境を「ダイバーシティ(多様性)からインクルージョン(包含)へ変わろうとしている」と指摘する。女性社員の割合を増やし多様性を実現したら、次の段階は男女区別なくそれぞれが個性を生かす組織風土づくりだ。「インクルージョンは経験が重なれば必ずもたらされるはず」。そう信じている。

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ロールモデルに頼らない ~取材を終えて~

男性中心の組織で女性のトップランナーとして活躍する3人は、自分がやりたい道を進んできたという。しかし、その存在が旧態依然とした組織風土に与えた影響は大きかったはずだ。女性活躍推進の風が吹く以前から、仕事に真摯に取り組むことで道を切り開いてきた。「女性だから特別扱いされている」といった声を耳にしても働き続けることを選び、成果を上げ、マイノリティー(少数派)ながら男社会で認められていった。

「ロールモデルがいない」と嘆く人の大半は、仕事と家庭の両立を念頭に話している。だが、女性の働き方や生き方には、いろいろな選択肢がある。「生き方は人それぞれ。ロールモデルはいなくていい」。取材を受けてくれた3人のように、自分で道を切り開くことが大切だと感じた。

(安原和枝)

[日本経済新聞朝刊2017年10月16日付]

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