iPhone 8実機検証 カメラは「SNS映え」に磨き
iPhoneの新機種「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」が登場して約1カ月。SNSでは「これまでと見た目が変わらないので新鮮味に欠ける」「斬新な機能がなかった」といった否定的な意見を目にすることも少なくない。だが、iPhone 8/8 Plusを実際に使用してみると、多くの人がスマホで重視するカメラ機能が着実に進化したという印象を受けた。方向性としては、若年層が重視する「SNS映え」を意識した改良になっている。そこで、歴代のiPhoneで本格的な撮影を手がけてきた三井公一カメラマンの協力を得て、カメラ機能の進化を焦点を当てiPhone 8/8 Plusの実力をチェックした。
■オートホワイトバランスが絶妙
いろいろなシーンで撮影して実感できたのが、オートホワイトバランスの改良。白い壁をそのまま白く補正してしまうのではなく、白熱灯などの雰囲気を残して人間が感じた印象に近い仕上がりにする傾向が見られた。特に、人物は天候や照明などの状況を問わず肌が赤みのある健康的な描写になり、多くのシーンで好ましいと感じることが多かった。撮って出しの写真をSNSで披露する人に支持されそうだ。
「ホワイトバランスがいい感じにブラッシュアップされたのではないか。屋内外でモデルを撮ったが、スキントーンの滑らかさも発色もきれいになった。異なる光源が混在する状況でも雰囲気をうまい具合に残しながら補正してくれるので、レストランや家庭での撮影でもいい仕上がりが期待できるだろう」と三井カメラマンも評価する。
オートフォーカスの高速化とシャッタータイムラグの短縮も体感できた。これまで撮影レスポンスが悪くなった夜間や室内など低照度時での改善が顕著になったように感じる。「オートフォーカスは先代よりも高速化された印象で、レスポンスは上々。モデルと会話しながらテンポよく撮影できた。シャッタータイムラグの少なさもあり、全般に動作はキビキビと感じられた」(三井カメラマン)
ちなみに、iOS 11では写真や動画の保存に高圧縮の新フォーマットが使われる。写真はJPEGではなくHEIF(High Efficiency Image File Format)に、動画はH.264でなくHEVC(High Efficiency Video Coding)になる。従来のフォーマットで保存することも可能だが、4K動画の60p記録やスローモーション動画の1080/240fps記録はできなくなる。新フォーマットで記録した場合でも、iPhoneから外部に送信する際はJPEGやH.264に変換されるので、基本的に新フォーマットでの記録にしておけば問題ない。
ポートレートモードは不自然さを解消
iPhone 8 Plusの望遠側カメラを使い、画像処理で人物の背景をぼかす「ポートレートモード」は、iOS 11で晴れてベータ版ではなく正式版となった。これまでは、人物と背景の境界が不自然だったり不明瞭だったりすることもあったが、iOS 11を搭載するiPhone 8 Plusでは「使える」と感じるシーンが増えた。被写体までの距離に応じてボケの効果を調整しているようで、背景が手前から奥に広がるシーンでは奥に行くほどボケが大きくなるなど、一眼カメラの描写に近づいたと感じる。
iOS 11では、ポートレートモードでフラッシュが使えるようになったのも地味ながら大きな改良点といえる。薄暗い室内や夜景でも、背景が暗く落ち込むことなくしっかり描きつつ、人物を明るく健康的に描写できる。
課題が残るポートレートライティング
iOS 11では、iPhone 8 Plusのポートレートモードに派生機能「ポートレートライティング」が加わった。デュアルカメラで距離情報を検出して人物と背景が分離できることを利用し、人物の顔だけを明るく照らし出したり、背景だけを暗く落とすといった加工がワンタッチでできるものだ。撮影時にこれらの効果を適用しながら撮ることも可能だが、ポートレートモードで撮影した写真に対してあとから効果を適用するのがやりやすい。
実際に試してみると、標準状態の「自然光」に対し、「スタジオ照明」は人物の顔が明るく照らし出されて印象が好ましくなり、女性など幅広い人物撮影で実用的に使えると感じた。「輪郭強調照明」は顔の陰影が強くなるので、力強さを演出したい男性の撮影に向くといえる。
いまひとつだと感じたのが、背景を黒く落として人物だけを浮かび上がらせる「ステージ照明」だ。背景が思ったとおりに切り抜かれず、不自然な仕上がりになることが多かった。黒い背景は非日常感が強すぎて、SNSでもいまひとつ使いづらいのでは……とも感じる。白の背景も選べるようにしたり、背景を別の画像に差し替えて人物と合成するといった機能があるとよかっただろう。もっとも、ポートレートライティングは現時点ではベータ版での提供となるので、今後さらなる改良がなされることが期待できる。
「ポートレートライティングはまだベータ版なので、過度な期待は禁物だ。ボケ味を出す被写界深度エフェクトは問題ないが、ライティングにまだ難がある。黒バックのスタジオで撮影したように、きれいに切り抜かれないときがあった。髪形や衣装、背景にも左右されるようなので、試行錯誤して撮影することが現状では求められる。昨年登場したポートレートモードのように、徐々に機能が成熟していくと思う」(三井カメラマン)
飛躍的な進化の可能性も
iPhone 8/8 Plusのカメラ機能を見てきたが、ベータ版での提供となったポートレートライティングに改善の余地を残すものの、好ましい描写に仕上がる点や、撮影のレスポンスが向上した点は評価できる。デジタル一眼でも数えるほどしかない4K/60pの動画撮影に対応した点も、動画派には注目といえる。
iPhone 8/8 Plusは、機械学習(ML)やAIの機能を強化した高性能のCPUやGPUを搭載していることもあり、OSのアップデートでカメラをはじめとする機能が大きな進化を遂げる可能性を秘める。斬新なデザインや装備で話題を集める「iPhone X」の陰に隠れて地味な存在だと思う人も少なくないと思われるが、最新iPhoneの名に恥じない佳作だといえる。
(文・写真 三井公一、磯修=日経トレンディネット)
[日経トレンディネット 2017年9月19日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。