空気読まず職場を変えよう 活躍阻む「不思議の日本」
ダイバーシティ進化論(出口治明)
日本は不思議な先進国だ。国内総生産(GDP)は世界3位なのに、世界経済フォーラムによる男女平等ランキングでは144カ国中111位。企業の女性管理職比率は1割程度と、3~4割の欧米と大きな差がある。欧州各国はクオータ(割り当て)制で女性の登用を制度化したが、日本政府は「女性が輝く社会」と文学的にうたうだけだ。
「そもそも日本には男尊女卑の土壌がある」。そんなあきらめに似た声も聞こえる。しかし歴史をひもとけば、古来日本は「女性が活躍する国」だった。
飛鳥時代から奈良時代にかけては6人の女帝が国を治めた。日本書紀で「深沈有大度」(深く物事を考え度量が大きい)と評された持統天皇をはじめ、どの女帝も大きな政治力を持っていた。平安以降も、北条政子など権力の中枢で世を動かした女性は数多くいた。
儒教(朱子学)が浸透した江戸時代以降は確かに、家父長主義的な価値観が広まった。しかし今の社会を形づくったのは、戦後の高度成長期の工場モデルだろう。男性が長時間働けるようにするため、国は配偶者控除や年金の第3号被保険者などの制度をつくり専業主婦の定着を図った。
それから半世紀。産業構造はサービス業中心となり、IT(情報技術)化やグローバル化で経済環境も大きく変わった。働き続ける女性も増えた。しかし男性中心の組織風土や、長時間労働を是とする働き方は変わらず、女性の活躍を阻んできた。
だが、もう待ったなしだ。働き手の確保や生産性向上、イノベーションの実現のためには、非効率な働き方を変える必要がある。本気で働き方改革を進めないと、企業は生き残れない。
だからこそ女性には、管理職やプロジェクト責任者などを打診されたら、引き受けてほしい。「ゲタを履いて出世した」と言われても気にすることはない。そんな噂が出る土壌こそ変えるべきだと開き直り、新しい働き方を実践しよう。効率的に働き成果を上げれば、評価がついてくる。大きな事業を自分のやり方で動かせるようになれば仕事はもっと面白くなる。
旧態依然とした労働慣行を目の当たりにしてもめげず、改善に向けできることに地道に取り組もう。文学者バーナード・ショーが喝破したように、進歩を生むのは空気を読み同調する人ではなく、自分の考えを貫く少数派なのだから。
ライフネット生命保険創業者。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を開業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2017年10月2日付]
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