VERBAL なぜ米エリート証券マンからラッパーに?編集委員 小林明

――なぜ「m‐flo」や「VERBAL」という名前にしたのですか。

「英語と日本語を混ぜた音楽はそれまでなかったし、どうせならインパクトがある名前にしたかった。そこで、宇宙から飛んできた隕石(いんせき)という英語の『meteorite』と『media』を組み合わせた造語に、流れるという意味の『flow』を付けた『mediarite‐flow』としてみた。しかし、音楽事務所の社長から『それでは長すぎるよ』と言われたので、『m‐flo』に変えました。あえて『w』を取ったのは単純に格好いいと思ったからです。一方、自分の名前の『VERBAL』は言葉で人に伝える仕事なのでそう付けました。ただややこしいのは、日本ではバーバル、米国ではヴァーボウ、韓国ではボボル、イタリアではヴェルバルなどと発音が国ごとにかなり違うこと。世界で通用しにくい名前なので、今更ながら少し後悔しています」

――英語は子どものころから不自由なく話せたんですか。

「小学校から高校まで東京のインターナショナルスクールに通っていたので話せました。ただ日本で話している英語はニュアンスやリズム感が多少違っていて通じないこともある。授業で習っている英語は実際に米国で話されている英語とは少し違うんです。特に黒人から『Yo!』などと話しかけられると、その勢いにこちらが負けてしまう。東部や西部、南部の間では文化の違いもあって、言葉の意味が理解できないことも結構ありました。しかもスラングだと何を話しているのかさっぱり分からない。だから、最初に耳が慣れるまでは大変でしたね。いまでも打ち合わせで特殊ななまりがある英語圏の人などと話していると、適当に相づちを打っていますが、半分くらいしか内容が分からないことがあります」

多様性のある世界の英語、日本・東京を活動拠点にする魅力とは?

――世界のあちこちで活動していますが、活動拠点としての日本や東京の魅力は何でしょうか。

ベルギーで開催された世界最大級のEDMフェス「Tomorrowland」に参加したVERBALさん(左、2017年7月23日)

「世界の中心と言ったら大げさかもしれませんが、日本のようにルールが多いのに、何でもありという国はとても少ないと思います。オタクという言葉が生まれたくらい、あらゆる分野のスペシャリストがひしめいている。アート界ではイラストレーターの空山基さんのようなすごい芸術家がリスペクトされているし、京都には長い歴史を持つ着物の職人さんもいる。美意識もクオリティーも高い。掘れば掘るほど深い。海外から戻ってくると、そういうすごさを改めて実感します。中国でも韓国でも、そこまで感じることはありません」

「東京・原宿の歩行者天国を歩くとよく分かりますが、昔はロカビリーのダンスを踊っている人もいれば、ブレイクダンスをしている人もいたし、いまではスケートボードをしている人もいれば、ゴスロリの格好している人もいる。まったくごちゃごちゃだけど、音楽もファッションも美術もすべてが混在する面白さがある。それが原宿のエネルギー。世界の多くのクリエーターがヒントや着想が欲しくて東京に頻繁に来ます。僕も東京で育ったので『格好良くて刺激的だったら何でもありじゃないか』という自由な発想がある。今後も自分のこういう部分は大切にしたい。そんな風土があるからこそ、日本ではユニークな文化が開花するのかなと感じています」

――今後、どういう方向を目指すつもりですか。

「この年齢までラップをしているなんて、まさか夢にも思っていませんでした。だから、そこに可能性を感じます。20歳代は目先のことを追っているだけで精いっぱい。最高のラッパーになろうということしか考えていなかった。30歳代はいろいろと起業して、ビジネスとかテクノロジーに興味が広がった。いまは誰に向かってクリエーションをしているのか、再び原点を問い直しているところ。クリエーティブなことにさらにドップリと漬かってみたい。好きなことに絞って仕事をしていれば、そこに広がりがあるし、もっと深い世界を追求できる。そんな気持ちで仕事をしています」

VERBAL(バーバル)
ラッパー、プロデューサー、DJ、デザイナー。1975年東京生まれ。東京・世田谷のセント・メリーズ・インターナショナル・スクールを経て、米ボストン・カレッジ卒(経済学・哲学専攻)。米証券会社スミス・バーニーなどに勤めた後、98年に音楽グループ「m‐flo」を結成し、「come again」「miss you」など多くの楽曲をヒットさせる。2014年にEXILEのリーダー、HIROさんの呼びかけでMAKIDAIさん、DJ DARUMAさんらとクリエーティブユニット「PKCZ(R)」を結成。
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