「『オン』の際のスーツにも無難一辺倒ではなく、自分の世界観を服装の中で主張したいと考えています。基本的なスーツのプロトコルは守りつつも、デザインなどでは工夫しています。最初は皆と同じように『つるし』でしたが、もともと凝り性なのでパターンオーダーの店から色々と調べていきました。きょうは津坂テーラー(東京・練馬)で仕立ててもらったスーツです。ファクトリーメードですが、デザインはビスポーク(オーダーメード)と同じ自由度で変えられるので、自分が求めている対局などの用途に合致しています」
■対局スーツでもモードを意識
「対局中に相手の服装はいやでも目に入ります。スーツのシルエットを見たり、ネクタイの裏からメーカー名が分かるときもあります。よい意味で気になる先輩もいます。自分とは違って筋肉質的な体つきの丸山忠久九段が肩の盛り上がった体形に合わせてどんなスーツを着ているか、師匠の米長邦雄永世棋聖も棋界のベストドレッサーだった中川大輔八段がどういうコーディネートで決めてくるかなどですね」
――棋士のスーツとビジネススーツとの違いはありますか。
「一番の違いは対局中はイスではなく畳の上に何時間も座っていなければならないことです。パンツが非常に痛みやすくヒザが抜けたり、ヒザ裏にシワが寄ってきてしまいます。棋士共通の悩みでしょう。私は心持ちパンツを持ち上げながら座るためかヒザが抜けたことはありません。しかし帰宅後は普段より念入りにブラシをかけるなどして対処しています」
「デザイン的には長時間の正座に備えてパンツは余裕のあるように作ってもらいます。今トレンドの細めのパンツは対局に向いていません。上着も軽めに仕立てて長時間対局に備えておくなど独特の制約はありますね」
――対局のスーツで名人のこだわりはどこにありますか。
「対局中のスーツにモード風のファッションをどう取り入れるかです。第1は袖のボタンの数です。決まったプロトコルは無いようなので7個とか8個並べて仕立ててもらっています。ビジネススーツよりも小さめの襟を使うようにもしています。3番目はカフス回りをフレア気味に広げています。しかし袖のボタンを褒めてくれる棋士はいてもカフス回りの工夫に気付いてくれる棋士はまだいません(笑)」
(聞き手は松本治人)
後編「スーツもいいけど和服もね! 将棋『貴族』の勝負服」もあわせてお読みください。
「リーダーが語る 仕事の装い」は随時掲載です。

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