――16年の名人戦第1局は「特注で白地に藤色(なす紺)をグラデーションに染めた羽織、灰白色の着物、榛(はしばみ)色の袴」、今春の防衛戦では「染井吉野を連想させる淡いピンクの和服に白色の羽織を重ね、濃緑の袴」での対局でした。名人戦の新聞観戦記にファッション解説の記述が大幅に増えています。
「今年は白瀧呉服店のご主人に誘われ、問屋を訪ねて反物の売り出しに行ってきました。呉服店でも十分に種類は多いのですが問屋となると圧倒的です。じっくり5時間かけて名人戦のための生地を決めました」
――スーツと和服、それぞれ対局中の着心地の違いはどこにありますか。
「和服を着ていると畳の上での起居動作が楽という特徴があります。座ったまま足を組み替えたり、立ち上がるときなどスムーズに動けます。スーツはもともとが正座での使い方を想定していないから窮屈で、ヒザに負担がかかります。逆に和服は腰を帯で結んでいるために長時間の対局では腰に負担がかかるといった違いがあります」
――名人は18年1月に30歳の誕生日を迎えます。20歳代の装いの総括と、これからを聞かせてください。
「20歳代前半は自分だけのファッションをつくりだしていく入り口で、試行錯誤を繰り返すのがよいと思います。自分が気に入った服を身につけてみる。その結果、周囲と調和していけるかを試していけばいいでしょう」
■新しいファッション、追い求める
「スーツのドレスコードやTPO(時、場所、場合)はもちろん大切ですが、あまり縛られるすぎると息苦しくなってしまいます。それらをまず知った上で、自分なりの解釈と実践の仕方を見つけるのが大事なことだと思っています。感性の上では、金銭的に背伸びしてでも好きなもの、感動させられるものを取り込んでおくべきだと思います。褒められたり、たしなめられたりしながら自分の好きな世界と社会とのバランスを、頭で理解するのではなく、感覚として理解できるようになればよいと考えます」
「20歳代後半は自分とファッションとの距離感覚がつかめてくる時期でしょう。好きなスタイルが分かってきて『いいスーツを着れば仕事がうまくいく』など楽しみ方が増えてきます。ドレスコードとの付き合いも自分なりのものが自然にできて、色々な応用が利く年齢だと思います」
「私もこれから30歳代を迎えますが、一通りの知識と感覚は身についているので、自分なりのスタイルを基盤に自然に幅を広げていけるのではないかと予想しています。『自分のスタイルはこうでなければ』と内向きに閉じこもるのではなく、新しいファッションも追い求めていけるでしょう。愛用している『アン・ドゥムルメステール』以外のブランドも試していくでしょうし、タイトル戦での装いも、これまで以上にほかの棋士が着る和服とは違った色や組み合わせになるかもしれません」
(聞き手は松本治人)
前回掲載「対局中にファッション思案! 佐藤名人のこだわり」もあわせてお読みください。
「リーダーが語る 仕事の装い」は随時掲載です。

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