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救うために殺す?「娯楽の狩猟」の倫理的、経済的問題

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/10/1

かつてのアフリカは「限りない自然の供給源」のようだったと、ライオン研究で知られる米国の生物学者クレイグ・パッカーは言う。だが今や野生生物の生息地はどんどん縮小している。「ライオンは絶滅危惧種になろうとしています。保護に有益な効果があるという明確な証拠を示せないのなら、娯楽としてのライオン狩りはやめるべきです」

ほかの大型猟獣についても、生物学者たちは同様の主張をしている。サイの角や象牙やライオンの骨は、特にアジアで高い需要があり、それらを狙った密猟が横行しているからだ。しかし問題は複雑で、ナイナイのゾウのように、トロフィー・ハンティングの実施地域で、特定の動物の数が増えているケースもある。

いずれにせよ、ライオン保護に関しては、「娯楽としての狩猟がもたらす資金は微々たるものです」とパッカーは言う。「その証拠に、これらの国々でも何年も前からライオン狩りが許可されていますが、ライオンの数は激減しています」。国際自然保護連合によると、タンザニアの五つの個体群では、1993~2014年までに個体数が3分の2も減ったという。

■収益はどこへ?

タンザニアなどの国々では、政府が狩猟地を所有し、プロのハンターと直接リース契約を結んでいる。この方式では、国の財政が厳しくなり、資金が必要になると、動物の個体数を考慮せずに狩猟割り当てが増やされる可能性があると、反対派は言う。しかも、こうした保護区では、狩猟ツアーの収益が保護に充てられないため、野生動物が減り、狩猟ができなくなるケースが多い。タンザニアではここ数十年、狩猟地に指定された地域の4割で猟獣が姿を消している。

たとえばタンザニアのセルース猟獣保護区では、2009年まではおよそ5万頭のゾウがいたが、今では1万5000頭程度になっている。野生生物保護の研究者カタルジナ・ノワックは問いかける。「世界中からトロフィー目当てのハンターがやって来て、その収益が保護と密猟対策に充てられたのなら、こんなにゾウの数が減るはずはないでしょう」

一方、トロフィー・ハンターのなかには、自分たちだけ責めるのはやめてほしいと言う人もいる。料金や狩猟割り当てを決める立場ではないし、収益が腐敗した政治家や官僚の懐に入る国もあるが、それについて自分たちは何もできないというのだ。環境保護活動家に劣らず、野生生物の現状を懸念していると言うハンターもいる。

ナイナイでのゾウ狩りの12日目、わずか15メートルほどの至近距離で男性は銃を構え、ゾウの心臓を狙って撃った。さらに頭部にとどめの一発を撃つと、ゾウは息絶えた。牙の重さはそれぞれ32キロ余り。サン族の人々が6時間足らずで皮をはがし、3トン近い肉を持ち帰った。彼らに金や食料を提供するため、あるいはナイナイを保全するために、絶滅の危機に追い込まれている動物を殺していいのだろうか――根本的な疑問は残されたままだ。

(文 マイケル・パタニティ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2017年10月号の記事を再構成]

[参考]ナショナル ジオグラフィック10月号では、ここに抜粋した特集「動物を救うために殺してもいいのか?」のほか、天然ガスとトナカイの民/異郷のヤズディ/よみがえるメキシコの海/エコ都市を目指すドバイなどを掲載しています。

NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2017年 10月号 [雑誌]

著者 : ナショナル ジオグラフィック
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,010円 (税込み)

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