この30年ほど、ソフトで軽いイタリア素材が市場で受け入れられてきました。今季は生地の縦糸、横糸の打ち込み本数が多く、目付のしっかり付いた英国調の素材がイタリアの素材メーカーでも増加しています。
また本場英国の老舗素材メーカー、フォックス・ブラザース社のヘビーフランネルも世界各国のアパレルメーカーからの引き合いが急増して、日本向けを筆頭に輸出が絶好調なのです。
英国調素材は、従来型のイタリア素材に比べると最初は堅く、重い印象を受けますが、丈夫で長持ちして、着ているうちに身体になじんでくるという特徴があります。紳士スーツ素材の本来あるべき姿に回帰していると言えるでしょう。
5. フォルム ニューボリュームの台頭
イタリア・フィレンツェの製品展示会、ピッティ・イマージネ・ウオモだけでなく、ミラノやフランス・パリのメンズコレクションでも、ゆったりとしたフォルムの「ニューボリューム」が台頭しています。
特に変化が顕著なのがボトムス(スラックス)とコートです。ボトムスでは、1or2プリ―ツ(タック)の復活が顕著です。またベルトレス、サイドエクステンション(サイドアジャスター)、ウォッチポケット、サスペンダーボタンなど、ビスポークテイラーのディテールが盛り込まれています。
1980年代のシルエットと異なるのが、腰回りはゆったりしていても、裾口に向かってテーパード(細く絞られている)点です。
コートはゆったりとしたAラインが復活して、ラグランスリーブ(首まわりから斜めに縫い付けられた袖の形状)が台頭している点も見逃せません。
6. デザイン スリーピース、ダブルブレストの拡大
3ピースのベストも1980年代にラルフ・ローレンが提案したクラシックなダブルブレスト6ボタンラペルドベスト(6つボタンの襟付きダブルベスト)が復活。
シングルベスト付きの3ピーススーツは、この秋すぐ取り入れられるトレンドのメインストリームと言えます。
オフィスで上着を脱いだベスト姿は、いかにも仕事ができそうなイメージを演出してくれます。
ダブルブレスト6ボタンスーツの提案も目立ちましたが、日本のビジネスシーンに再定着するには、しばらく時間がかかるでしょう。
7. ディテール ビスポークディテール
ジャケットのチェンジポケット、1or2プリーツの組下トラウザース(スラックス)、ベルトレス、サイドエクステンション、ウオッチポケット、サスペンダーボタンなど、ビスポークテイラーのディテールが、日本で販売される国内外の既製服スーツにも登場し始めて来ています。