O157はポテサラ、肉だけでない 過去に生野菜でも
埼玉県と群馬県の総菜店で販売されたポテトサラダを食べた人が腸管出血性大腸菌O157に感染した、という集団食中毒に関するニュースが2017年8月21日以降、新聞やテレビで取り上げられました。
O157は、ヒトに感染して下痢などを引き起こす病原性大腸菌のうち腸管出血性大腸菌に属する細菌で、重症の食中毒を引き起こしやすいことが知られています。20年以上前に、大阪府堺市で発生した、小学校の給食を介したO157の大規模食中毒をご記憶の方も多いでしょう。
O157感染を防ぐためには、まず、敵を知る必要があります。その上で、どう行動すればよいのか、考えてみましょう。
今回の事例の概要:複数店のポテトサラダからO157検出
この総菜店の系列34店で販売されたポテトサラダは、8月5~7日に加工工場で、ジャガイモ、人参、玉ねぎ、キュウリ、キャベツを使って製造され、総菜店の各店舗に冷蔵配送されました。個々の店舗は、7日と8日に、ハムまたはリンゴを追加して、量り売り形式で販売しました。
発覚のきっかけは、埼玉県の店舗でこの製品を購入して食べた、4歳から60歳までの計8人が下痢や腹痛などの症状を訴えたことでした。保健所が調べたところ、このうち6人からO157が検出されました。当初は、4歳の男児、60歳の女性が重症で、5歳女児は溶血性尿毒症症候群(HUS)[注1]を発症して意識不明、と報道されましたが、その後、快方に向かっていると発表されました。
焼肉、ピザ店…外食でも次々とO157感染が判明
このケースとは別に、横浜市の焼肉チェーン店を7月30日に訪れ、食事をした2グループの客のうち、10歳代の女性と80歳代男性が、8月3日に下痢や発熱などの症状を訴えていたことも分かりました。検査したところ、O157が原因と判明。2人は一時入院していましたが、その後回復し、8月23日時点で女性は退院済みでした。
また、埼玉県川越市によると、市内のピザ・パスタチェーン店で、8月11日、12日に食事をした18~77歳の男女7人が腹痛や下痢を訴え、全員からO157が検出されています。
「カイワレ」が疑われた堺市での集団感染、感染源は結局不明
冒頭でも触れましたが、O157は20年以上前の1996年7月に、大阪府堺市で小学校の給食を介した集団感染を引き起こしています。この事例では、7月12日の夜中に発症者が現れ始め、14日に下痢や腹痛の原因はO157であると判明しました。7月23日に10歳女児、8月16日に12歳女児がHUSにより亡くなりました。
堺市がまとめた調査結果[注2]によると、学校給食による大腸菌O157の感染が確実であると判断された患者は計9492人、検査によりO157感染陽性と確定したのは1889人、入院した患者は791人で、121人がHUSを発症し、1年以内に計3人の小学生が亡くなりました。
集団感染から20年を経た2016年になって、犠牲者は4人に増えました。当時HUSを発症し、後遺症の腎性高血圧の治療を受けていた女性が、脳出血により死亡したとのことです。現在もほかに4人が、後遺症に対する治療や経過観察を受けています[注3]。
一時は、給食に入っていたカイワレ大根が感染源だといわれましたが、濡れ衣でした。大規模な調査が行われましたが、結局、原因は不明のままです。
O157は少ない菌でも感染しやすく、毒性が強い
O157の特徴は「毒性が強い」「(口に入った菌の個数が少なくても)感染しやすい」「すぐには症状が出ない(3~9日後に発症)」であり、感染経路は「直接感染」と「二次感染」です。堺市の集団感染の時にも、小学校に通う子どもと同居していた家族が感染しています。富山県のサイト[注4]が分かりやすくて秀逸です。
子どもや高齢者は、重症化しやすく、HUSを発症する危険性が高く、HUSになると、死亡する人や後遺症が残る人が出てきます。
重要な問題は、感染しても発症しない人がいる、という事実です。本人は全く健康であるにもかかわらず、便にはO157が存在しているため、気づかぬうちに周囲に感染者を増やす危険性があります。
季節的には、O157感染症は、6月頃から増え始め、8月と9月に最も多くなり、それ以降減少します[注5]。ただし、冬でも患者は発生しています(下図)。
さらに詳しく知りたい場合は、厚生労働省の「腸管出血性大腸菌Q&A」[注6]をご覧ください。
外食や総菜からのO157感染はどうすれば防げる?
総菜や外食でのO157感染は、回避することはほぼ困難です。リスクを減らす方法があるとしたら、O157による食中毒が多い季節は、特に子どもと高齢者は、購入した総菜を食べることを避け、外食も控えることでしょうか。
[注1]HUS(hemolytic uremic syndrome):溶血性尿毒症症候群。O157感染が引き起こす重症合併症で、赤血球の破壊による貧血、出血を防ぐ血小板の減少、急性腎不全などが生じる。脳に症状が現れて、けいれんや意識障害が起きることもあり、最悪の場合、死に至る。
[注2]堺市学童集団下痢症報告書「腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒の概要」2.患者数
[注3]日本経済新聞2017年8月28日(月)「O157後遺症で女性死亡 大阪・堺市の集団食中毒」
[注4]富山県 新川厚生センター「腸管出血性大腸菌O157について」
[注5]神奈川県衛生研究所「腸管出血性大腸菌による食中毒に注意しよう」
[注6]厚生労働省「腸管出血性大腸菌Q&A」
また、総菜の場合には、自宅に持ち帰る間も保冷し、持ち帰ったらできるだけ早く食べれば、リスクは低下します。
自宅でも、外食でも、食品中ではなく、ドアノブや机がO157で汚染されている可能性もあります。何かを食べる前には、必ず正しい方法で手洗いをしてください。埼玉県の県民生活支援センターが行った実験では、アルコールを含む除菌ウエットティッシュでも、1回の拭き取りでは机の上にばらまいた細菌をすべて死滅させることは困難でした[注7]。手指もしっかりと複数回、拭きましょう。
食中毒予防の三原則は、「付けない、増やさない、殺す」
食中毒予防の三原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」となっています。
「付けない」は、汚染されている可能性のある食材を扱ったあとには、手と調理器具を十分に消毒することにより可能です。「増やさない」には、細菌が増殖しやすくなる環境(室温など)に、食材や食品を放置しないことが大切です。「殺す」は加熱が確実です。75度で1分以上加熱すれば死滅します。
もし、家庭内に発症者が出たら、先ほど紹介した富山県のサイト[注4]の「患者が発生した場合、消毒の必要があるのはどこ?」に沿って、トイレと洗面所を中心に消毒します。ノロウイルスと違って、消毒用エタノールは有効です。
O157の主な感染源は? ~過去の事例から~
【牛肉】
O157は牛や豚などの腸内と肝臓(レバー)内に生息しています。
現在、外食店での牛や豚の生レバーの提供は禁止されています。中まで完全に加熱すれば安全です。レバー以外のかたまり肉は、O157が付着していたとしても表面にとどまるため、表面をしっかり加熱すれば大丈夫ですが、ひき肉は、表面だけでなく全体にO157が存在する可能性があるため、中心部が75度の状態を1分以上継続する必要があります(関連記事「食中毒4つの盲点 刺し身より『半生ひき肉』に注意」)。
【野菜】
例1:2012年8月、札幌市を中心とする11の高齢者施設などで、白菜浅漬けを原因とするO157感染症が発生、169人が食中毒患者と認定されました[注8]。
例2:2014年の7月末に静岡県で開催された花火大会の露店で販売された冷やしキュウリを食べた510人がO157感染症を発症し、114人が入院しました[注9]。
例3:2016年の8月に、千葉県と東京都の老人福祉施設で、キュウリのゆかり和えを食べた84人がO157感染症を発症しました[注10]。
相次ぐ野菜からのO157感染をうけて、栽培過程で野菜にO157が付着する可能性が指摘されるようになりました。
有機野菜の人気が高まり、堆肥として、また、土作りにおいて、牛糞堆肥が再評価されています。牛糞堆肥は、3~6カ月間、空気を入れるために牛糞を何度も攪拌(かくはん)し、発酵させて作ります。発酵中は堆肥の中の温度が80度程度まで上がるため、堆肥中の病原菌が減り、雑草の種も死滅します。原料となる牛糞にはO157が存在しており、十分に発酵させれば死滅することを示す研究結果はあります[注11]。しかし、発酵が足りなければ、O157が残存する可能性あります。
O157が付着しているかもしれない野菜を生食する場合、どうしたらよいのでしょうか。
丁寧に3回、野菜を洗うと、付着している大腸菌は大きく減るそうです。札幌市の保健福祉局が、主な野菜の洗い方を分かりやすく説明しています[注12]。
また、厚生労働省が、大規模な調理施設向けに提示している、食中毒を防ぐための「大量調理施設衛生管理マニュアル」[注13]は、生食用の野菜や果物は、流水で十分洗浄し、小児や高齢者や抵抗力が弱っている人が口にする場合には、次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌した後に流水で十分すすぐことを求めています。
次亜塩素酸ナトリウムは、水道に添加されており(いわゆる塩素)、プールにも添加されており、安全性が確認されています。野菜果物の殺菌には、食品添加物グレードの製品が用いられます。インターネットのショッピングモールを利用すれば、誰でも購入できます。希釈方法と使用方法は、個々の製品のラベルを参照してください。
【井戸水】
1990年代まであちこちで、O157に汚染された井戸水の使用による集団食中毒が発生していました。今もなくなったわけではありません。
2016年7月に滋賀県の焼肉店で食事をした39人がO157感染症と判断されましたが、原因は、野菜の洗浄などに用いられた井戸水だと見なされました[注14]。
O157などの食中毒を完全に避けることは困難ですが、生焼けのハンバーグや生レバーだけでなく、生野菜などにも注意して、少しでもリスクを減らしていきましょう。
[注7]埼玉県 消費生活支援センター 商品比較テスト「除菌ウエットティッシュの効果をテスト」
[注8]国立感染症研究所 IASR 2013年5月号「白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒事例について-札幌市」
[注9]国立感染症研究所 IASR 2015年5月号「花火大会関連腸管出血性大腸菌O157 VT1&2集団発生事例-静岡市」
[注10]国立感染症研究所 IASR 2017年5月号「きゅうりのゆかり和えによる腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事例―千葉県, 東京都」
[注11]独立行政法人 農林水産消費安全技術センター「肥料研究報」2012年第5号 126-137ページ
[注12]札幌市保健福祉局保健所食の安全推進課 「生野菜や浅漬けを安全に食べるためのポイント」
[注13]厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改正について
[注14]国立感染症研究所 IASR 2017年5月号「焼肉店の利用客における腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事例―滋賀県」
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般c向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2017年8月29日付記事を再構成]
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