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プロが明かす出世のカラクリ

「いらないオジサン」にならないためにできること 20代から考える出世戦略(16)

2017/9/12

PIXTA

 どの会社にもなぜか「いなくてもよいおじさん」がいます。学歴は高いらしいし、言っていることももっともらしい。いつもなにがしかの仕事をバリバリしているっぽい。会議でもしっかり発言もする。客先に行っても必ず何かは話している。けれども役職についているわけではないし、責任や権限を持っているわけでもない。あの人なんだろう?と思うことがありますが、誰でもそうなってしまう危険性はあるのです。

■いなくてもよい人がいるのはなぜ?

 ある大企業の人事改革プロジェクトを進めてしばらくした時、先方の窓口になっている30代半ばの課長代理がふと「Fさんって不思議な位置づけですよね」ということをつぶやきました。

 Fさんというのは、人事部ではなく総務部に所属する次長で、人事改革プロジェクトのオブザーバー的に参画している人でした。年齢はおそらく50才前後。社内のさまざまな部署の経験を積んでいて、社内事情に詳しいだけでなく、人事についても勉強をしっかりされているようです。会議の場では、コンサルタント側が提示した資料をしっかり読み込み、自分なりの意見を示してきます。ちょうどその時の会議でも、こんなやりとりがありました。

Fさん「なるほど。このように行動評価基準が、弊社の統計的に読み取れたわけですね。しかし私の経験からいえば、これらの行動基準はどうもしっくりこないですね」

コンサルタント「たとえばどの基準がしっくりこないのでしょう?」

Fさん「うーん、そうだなぁ……たとえば『チャレンジ』という行動基準ですが、すべての仕事でチャレンジができるわけでもないでしょう。だとすればチャレンジという基準を全員に適用するのはいかがなものでしょうね」

コンサルタント「なるほど。ただ先日の社長インタビューでも『チャレンジ』はとても重要だとお話されていましたし、新5カ年計画でも一番最初に出てくるキーワードです。今までがそうでなかったからこそ、チャレンジを重視するというメッセージにはなりませんか?」

Fさん「そういう考え方もありますか。まあ私の意見はあくまでも現場の意見ですから」

コンサルタント「他にはどんな点がしっくりこないでしょう?」

Fさん「いや、まあしっくりこないというだけですよ」

 課長代理はそのときのFさんとコンサルタント(私)とのやりとりで、首をかしげたそうです。

課長代理「結局Fさんは『俺の仕事にチャレンジする要素がない』ということを『しっくりこない』と言っていただけですよね」

私「まあそういう意見の方はいらっしゃいますよ」

課長代理「あの人いつも一言は話すんですけれど、感覚的な話ばかりだし、結論がないし、結局自分を擁護する意見だし。プロジェクトに参加している意味が分かってないと思うんですよ。外部から見てどう思います?」

私「そうですね……でもそういう方でも、プロジェクトの中で意見を言っておいていただいた方が、あとで反論されるよりはいいようにも思いますよ」

課長代理「そういうものですか。ただ、あの人のせいで会議が長引くことが多いし、絶対プロジェクトにいらないと思うんですよね……」

■手を動かさないことですべてが台無しになる

 Fさんのような方はたまに見つけることができます。このような方は、能力的には極めて高いのです。知り合いも多いし、知識量も多い。また多様な経験も積んでおられます。

 それらを見るととても良い方なのですが、ある一点の行動だけがないために、10年とか20年をかけて、いなくてもよい人になってしまうのです。

 それは、目に見える形のアウトプットを出さないこと。

 より簡単にいえば、口は出すが、手は動かさない、ということです。

 能力も経験もあるので、口に出した言葉はとても含蓄があります。しかし言葉だけで手を動かすことがないので、形にするのは他人任せとなってしまいます。プロジェクトのような一時的組織の中で、実作業を担当する後輩がいたりする分にはそれでも存在価値を示すことはできます。しかし日々の業務においては、良いことを言うけれど手を動かさない人、ということになれば結局、実作業担当に仕事が集中するだけになってしまいます。

 やがて、これらの行動が繰り返されることで、この人のいらない度合いが増していってしまうのです。

 それは仕事には相手がある、ということを忘れてしまうこと。具体的には、意見などの見せ方を気にしなくなるということです。

■内容だけではなく見せ方も重要

 ある意見を示すとき、その言い方や示し方で相手の受け取り方が大きく変わります。

 たとえばある製品を売り込むのに、競合他社の製品と比較されているとします。この時、口頭で「うちの製品の方が優秀です。その理由は……」と言い続けるよりも、わかりやすい比較資料を作成して提示する方がインパクトがあります。またその見せ方についても、何枚もの細かい資料として見せるよりも、わかりやすい1枚を追加説明資料として見せることで、さらにこちらにとって有利な判断を引き出しやすくなります。

 これらはすべて形にすることで実現する効果です。

 相手を理解し、相手が求めるものを理解し、形にすることこそがビジネスの根幹です。

 そして、形にするためには、口で話すだけではなく自分の手を動かすことが重要なのです。

 仮に「こんな感じで作っておいて」と伝えて、それをしっかりと形にできる部下や後輩に恵まれていたとすればその間は困ることはありません。しかしその部下や後輩が経験を積んでいくことで、やがて口だけで指示をしていた人の存在価値はなくなっていきます。

 部下や後輩も、やがて知識や経験を手に入れるからです。そして形にしてきた経験があるから、顧客が求めることについてもより敏感になっていることでしょう。良いことを言うけれど形にできない人と、形にする力を持ち、良いことも言えるようになった人、どちらが周囲に求められるかは一目瞭然です。

■OAスキルが重要だというわけではない

 それはなにもOAスキルを高めようということではありません。

 たしかに、ちょうど今の40代後半以上の人たちの中には、OAスキルが極端に低い人たちがいます。新卒で社会に出た頃は、卓上電話とメモ用紙が仕事のツールだった人たち。その後のIT技術が進化する中でも、タッチタイピングが面倒だからと練習せず、ワードやエクセルも「よくわからないからやっといて」と部下や後輩に丸投げしてしまっていたような人たちです。さすがにメールを操れない人はほとんどいませんが、それでも、履歴を残さなければいけないから必ずメールで連絡する必要があるようなことですら、すぐに電話で済まそうとする人たちもいます。

 しかし大事なことはOAスキルの有無ではありません。別に手書きでもなんでも、形を示せるかどうかが重要なのです。

 一番の問題は、自分で形にすることを忘れてしまうこと。忘却はやがてキャリアの価値の喪失につながってゆきます。

 そうならないためにも、私たちは気づいた時点で、形として成果を残すことを意識しなければいけません。示したい意見の根拠と結論をしっかりと定義しつつ、それらを文書の形で残す。必要な補足情報があればそのための資料も用意する。

 別にきれいなパワーポイントや精緻なエクセル分析が重要だということではないのです。手書きでだって問題ありません。

 自らの価値を、見えて、残る形で示す。

 自分の手を動かすことを怠らないでいれば、いなくてもよいおじさんになる可能性は激減し、いつまでも主要なメンバーの一人でいられるのです。

平康慶浩
 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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