ネットCM、炎上の背景 ジェンダー表現に違和感
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
このところ、家族やジェンダー表現に関し、ネットCMが賛否両論を巻き起こす、いわゆる「炎上」が話題となっている。
昨年末、ユニ・チャームは乳幼児用おむつのCMで、育児に孤軍奮闘する女性を当然視するような姿を描き「ワンオペ育児賛美」と批判を浴びた。今年7月にはタレントの壇蜜を起用した宮城県の観光PR動画が、性的な含意が過剰だとして炎上。最近は牛乳石鹸が父の日に合わせ公開した動画が、男性が抱える焦燥感を表現しようとしたものの「意味不明」と批判された。
多くの視聴者が見ることを前提に作られるテレビCMに対し、ネットCMはより多くの耳目を引きつけようと表現が過激になりやすい。家族や性に関する表現について、製作現場と視聴者、さらには視聴者の間でも「正しさ」と「望ましさ」をめぐる乖離(かいり)が偏在していることも相次ぐ炎上の背景にある。
単なる差異としての性差に問題はないが、それが所得や社会的地位などの不平等の源泉になる場合や、役割規範の強制に結びつく場合は人権問題になりうる。他方、家族やジェンダーはあまりに身近で客観的に見ることが難しい。たとえ自覚的な人が問題を指摘しても、無自覚な人はその声を敵視し、建設的な議論になり得ないことは多い。
CMは商品そのものの使用価値だけではなく、社会的な意味や価値を再生産するという意味で、社会的影響力が大きい。このため国際的にも、ジェンダー表現はより公平性を求める方向へ向かっている。英広告基準協議会(ASA)は7月、性別に基づくステレオタイプ(固定概念)を助長するような広告表現を禁止すると発表した。
これは男女問わず人を性的対象へと歪曲(わいきょく)化するような表現、固定化された性役割の表現などが相当する。例えば男性が家事や育児を失敗して当然のように描くことなども規制対象となる。
先述の牛乳石鹸の動画で描かれた既婚男性は、ゴミ出しを日課とし、子どもの誕生日にケーキを買って帰るよう妻に頼まれる「いいお父さん」だが、うつろな目をして日常を送る。性役割の変化の中で自らの父親のようにはなれない自分に戸惑う姿に、男性も自らの「男性性」に自覚的になり始めたのかと考えた。もっとも「ワンオペ育児妻」たちには、戸惑っている時間すらないのだが。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2017年9月4日付]
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