女っぽさと強さ ローランサンに着想得た秋冬スタイル
宮田理江のおしゃれレッスン
淡い色彩の女性ポートレート画で知られる女性画家、マリー・ローランサン(1883~1956年)。パステルカラーでやさしげに彩られた彼女の画風は近年、ファッションデザインにもインスピレーションを与えています。ココ・シャネルの肖像画を描いたことでも有名なローランサンの絵は、たおやかさと強さを兼ね備えた「スーパーフェミニン」が大事なテーマとなってきた現代の装いにヒントをくれます。
ローランサンの作品を集めた、世界で唯一という「マリー・ローランサン美術館」が2017年7月、ホテルニューオータニ ガーデンコート6階(東京・紀尾井町)に再オープンし、開館記念回顧展「マリー・ローランサンが東京にお引っ越し」を開催中です。長野県茅野市蓼科高原で11年にいったん閉館した同館が引っ越ししたかたちです。
ピンクやブルーのパステルカラーの服が華やかな女性画はロマンティックでありつつ、どこか強さを秘めています。女性の二面性を印象づけるその画風は今のモード界が意識する、重層的な女性像と通じ合うところがあります。
パリの老舗ブランド「NINA RICCI(ニナ リッチ)」の創業デザイナーであるニナ・リッチ(1883~1970年)はローランサンとほぼ同時代を生きた女性で、フレンチシックと気品を感じさせる独自のテイストを確立。男性中心だった美術界にフェミニンを持ち込んだローランサンと活躍ぶりが重なります。
NINA RICCIの2017-18年秋冬コレクションはローランサンを思わせる淡いカラーパレットを提案しました。ただし、パステルカラーを用いながらも、ところどころにりりしさやアクティブ感を宿しています。
ピンクのワンピースには膝下まで届く長いフリンジ(飾り房)を垂らして、ウエスタン(米国西部開拓時代)のムードを帯びさせました。オーバーサイズのコートも前を全開にして両手はポケットに突っ込んで、タフさを漂わせています。
さわやかなイエローの装いもコートの袖を折り返して、型にはまりきらないスタイリングに仕上げました。コートまで淡い黄色のワントーンでそろえ、首から長く垂らしたひもリボンをわざと正面からずらして、リズムを生みました。ウエストに巻いたベルトと一体化したバッグの意外感も着姿を程よく揺さぶっています。
ローランサンが好んで使った、グレー味を帯びた、沈んだパステルブルーが気高さをまとわせています。ウエスタンシャツの襟先やジャケットの胸ポケットに込められているのは、カウボーイのイメージ。貴婦人のエレガンスと開拓者のワイルドさを同居させたスタイリング。今のトレンドになっている「強い女性」を上品に表現しています。
水色でポジティブに染め上げたパンツルックにも、両肩の部分にレザーをあしらって、ウエスタンのムードを目に飛び込ませました。特大のコート襟がカウボーイ風のアウトドア気分を薫らせています。コーデュロイの質感もカウボーイルックのよう。手を差し込んでいるパンツのポケットはジーンズ風なつくり。バッグからもフリンジをおどらせています。
ローランサンの作品を連想させるような女性の顔を大きくプリントしたワンピースは憂いを帯びた色調のブルーがアンニュイな気持ちを誘います。首周りを飾ったフリルはレディーの風情。どこかさめた女性の表情が着姿全体に深みをもたらしています。
コレクション全体は米国・ウエスタンのカウガールから着想を得ています。フリンジもウエスタンなイメージ。サイドに穴をあけたドレスやスカートは西部開拓時代のイメージ。星型のスナップボタンで開閉するカウボーイシャツ、ループタイもカウガールを連想させます。こうした活動的なムードと交わらせると、パステルカラーのやわらかいトーンが一段と生きるので、着こなしに取り入れてみましょう。
[画像協力]
NINA RICCI https://www.ninaricci.com/ja-JP
マリー・ローランサン美術館 http://marielaurencin.jp/
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報、リアルトレンドを落とし込んだ着こなし解説などを発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした消費者目線での解説が好評。自らのTV通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。 著書に『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(学研パブリッシング)がある。公式サイト:http://riemiyata.com/
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。