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え、丸ごと揚げてフライに? 驚きの南米巻きずし文化

それにしてもなぜこのような「変わりずし」が生まれたのか? もっとも有名な海外発の巻きずし「カリフォルニアロール」にそのヒントがある。

カリフォルニアロールはカニ風味カマボコ(あるいはボイルしたカニ)とアボカド、マヨネーズ、ゴマなどを巻いたもの。1960年代に米ロサンゼルスにあった日本料理店「東京會舘」内のスシ・バーの職人が考案したといわれている。

カリフォルニアロールは逆輸入されて日本でもおなじみ

米国人は箸に不慣れで「握りずし」だとうまくつまめないため、「巻きずし」の形状がよい。当時は生魚を食べる習慣があまりなかったので、具には生の魚を用いずカマボコに。海苔もアメリカ人からすれば「黒い紙」にしか見えず、食欲をそそるものではないから「裏巻き」(海苔が内側でご飯を外側に)に、といった事情からこのようなスタイルが誕生したという。

中米・南米の人も、もともと刺し身を食べる習慣がなかったし、海苔もあまり好きではないようだ。かつて日本人とアルゼンチン人で手巻きずしパーティーをしたときもアルゼンチン人は用意した海苔には手をつけずに、レタスの上にご飯と具を乗せて巻いて食べていたっけ。

そんなわけで中米・南米のすしも「基本は巻きずし」「具は生魚でなくえびフライなど火が通ったものか、チーズやアボカドが使われることが多い」「海苔は使わないか裏巻き」がポイント(つまり、外国人にすしをふるまうときにはこのポイントを押さえるべし)。どの国も似たりよったりで、「この国のすしはこういう傾向がある」とは言い難いのだが、例外もある。

ブラジルである。中米・南米はほとんどがスペイン語圏のなか、数少ないポルトガル語圏のブラジルは食文化でも我が道を行く。ブラジルでは「手巻き」が人気なのだ。数年前から「手巻きずし」専門のファストフード店が爆発的に増えている。その名も「テマケリア」。

ブラジルでは手巻きが大ブーム

ポルトガル語では名詞に「-eria」「-aria」をつけると「〇〇屋さん」という意味になる。アイスクリームを意味する「sorvete」に「-eria」をつけて「sorveteria」でアイスクリーム屋さん、薬は「droga」で「drogaria」は薬屋さんのように。

実はスペイン語も同様で、名詞に「-eria」をつけると「〇〇屋さん」という意味になる。たとえば、本は「libro」で本屋は「libreria」だ。だから、ポルトガル語スペイン語圏に住む日本人は「テマケリア」と聞くと笑ってしまう。

「手巻きに『-eria』つけちゃうかよっ!」とツッコミたくなる。英語の「-er」をつけてマヨネーズ好きな人を「マヨラー」、安室奈美恵さんが好きでファッションなどをまねをする人を「アムラー」と呼ぶと初めて聞いたときの衝撃(笑撃?)に似ている。

はみ出すほどのボリュームの具がブラジル式

具はほかの南米・中米の国同様、サーモンやまぐろ、揚げ物、チーズ、フルーツなどだが、ブラジルでしかお目にかかれない具もある。「にらのバターソテー」と「しめじのバターソテー」だ。

テマケリアのカウンターで職人さんに「あなた、日本人ならこれ食べたいでしょ?」と頼んでもいないのに「にらのバターソテーの手巻き」を出されたという話を聞いたことがある。どうやらその職人さん、日本の定番メニューだと信じこんでいるようだ。ええ、そんなの日本にないですからっ! 

以上、ご紹介したような「変わりずし」は海外では「フュージョン」「フュージョンずし」と呼ばれ、日本の伝統的なすしとはまた違うジャンルである。中米・南米にもフュージョンではない本格的な日本のすしを出すお店もわずかながらあることも付け加えておく。

ちなみに、冒頭のペルー人の質問には「マキ、もちろんつくれるよ」とだけ答えたらしい。日本人が日常的にすしをつくるわけじゃないことは言わずもがなである。

(ライター 柏木珠希)


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