贅沢なハード、安全なOS 新Surfaceの挑戦
西田宗千佳のデジタル未来図
マイクロソフト(MS)が2017年7月20日に発売した「Surface Laptop」をレビュー用に借りて、使っている。結論から言えば、非常に使いやすいパソコンだ。同社はこの4年ほど、かなりこだわって「Surface」シリーズを開発している。そのこだわりがSurface Laptopにも見える。
この製品、改めてじっくり使うと、マイクロソフトが今のパソコンに必要だと考えている要素がよく見えてくる。
オリジナリティーが高いハードウエア
これまでのSurfaceは、タブレットにキーボードカバーを取り付けて使う「2in1」型だった。Surfaceで「2in1」という分野を切り開いたと言ってもいいだろう。だが、Surface Laptopはその名の通り、一般的なクラムシェル型のノートパソコンになった。これまでのSurfaceシリーズでは、ハイエンドモデルのSurface Bookが一般的なクラムシェル型に近い2in1だったのだが、ハイエンド製品だけに価格が高めで、サイズもモバイルノートとしてはかなり大きめだった。Surface Laptopは、10万円台前半からの価格で1.2kg台の重量とバランスも良く、ようやく来た本命、といえる製品だ。
実際使ってみると、非常に完成度が高いことがわかる。特に筆者が気に入ったのは、ディスプレーと「質感」の高さだ。
Surface Laptopは2256×1504ドット(201PPI=pixel per inch)、13.5インチのディスプレーを採用している。発色・色域ともに良好だが、特にいいのは、縦横比が「3:2」であることだ。多くのノートパソコンは16:10のディスプレーを使っており、縦方向の情報量が少なめになる。ほんの少しの差ではあるが、ウェブの表示量でも、文書の表示量でも3:2の方がいい。
3:2や4:3の縦横比のディスプレーを採用するパソコンは最近増えている。国産ではパナソニックのLet's note XZシリーズ、海外ではファーウェイのMateBook Xシリーズが3:2のディスプレーを採用している。Surfaceシリーズは一貫して「紙の書類に近い縦横比」を採用しており、Surface Proでは4:3、Surface Bookでは3:2だった。
タッチの精度も高く、他のSurfaceシリーズ同様、専用の「Surfaceペン」も使える(ただし別売)。クラムシェル型では2in1ほど出番はないが、「ないよりあった方が便利」であるのは事実。縦横比と合わせ、Surfaceシリーズの伝統をかなり忠実に引き継いでいる。
キーボード面の出来もいい。キータッチは水準以上の出来。ボディーの剛性感が高いため、タイプしていても疲れが少ない。表面に貼られた合成皮革「アルカンターラ」は、かなり良い感触だ。汚れが残りそうに思えるが、起毛素材ではないし、湿らせた布などで拭ける。元々自動車の内装などに多く使われる素材で、耐久性は高い。CPUなどの放熱が大きくなると熱くなりそうなイメージをうけるが、そういうこともなかった。アルミボディーで放熱重視の製品と比較しても、不快感は小さかった。デザイン的にも、他にない強いオリジナリティーを感じる。
気になる点はある。インターフェース類だ。Surface LaptopはUSBとmini Display Portを1つずつしか備えていない。あとはヘッドホン端子とSurface独自の電源端子だけだ。薄型ノートではインターフェースが少ない製品が増えており、珍しい話ではないが、やはり不便なものは不便である。ディスプレー端子にはかたくなにHDMIを採用していない。電源端子はUSB 3.1対応のUSB Type-C端子でUSBと共用した方がいいとも思える。このあたりは、他のSurfaceシリーズと合わせているのかも知れないし、設計時期による判断なのかも知れない。
セキュリティーを高める「Windows 10 S」
Surface Laptopの非常に大きな特徴は「ハード以外」にも存在する。
OSに、新しいバリエーションである「Windows 10 S」を採用していることだ。Windows 10 SはWindows 10 Proをベースにしているが、ソフトを「Windows Store」からしかインストールできない。iPhoneでアプリを「App Store」からしかインストールできないのと同様だ。
これは主に、セキュリティー対策と管理のシンプル化が狙いだ。マルウエアの被害は、悪意をもって作られたソフトウエアが隙を突いてインストールされてしまうことで起こる。ソフトのインストールに制限をかければ解決しやすい。
Window 10 Proへの「無償アップデート」をお勧め
ただ、Surface LaptopにWindows 10 Sがふさわしいかどうかは問題だ。
筆者は数日間、Windows Storeアプリだけで過ごしてみた。できなくはない。できなくなはないが、非常に窮屈だ。ウェブブラウザはWindows 10標準のMicrosoft Edgeだけが使えて、日本語入力ソフトもOS標準のMS-IMEのみ。クラウドストレージとしても、マイクロソフトのOneDriveはすべての機能が使えるが、Dropboxなど他のサービスでは、ファイルの同期などに制限が出る。メジャーなソフトとしては、AdobeのPhotoshopや、AppleのiTunesが使えない。EdgeやMS-IMEの完成度は低いものでないので、それでも十分に作業はできるし、メジャーアプリの代替物はあり、工夫で乗り越えられなくはない。だが、やはり普段できることが「同じWindowsなのに出来ない」のはストレスがたまる。
そもそも、Windows 10 Sの「S」は「スクール」のSであり学校市場をターゲットにしたものだ。高付加価値型であるSurface Laptopに適切か、というとかなり疑問がある。Surface Laptopは、多くの人がメインのパソコンとして選ぶ製品であるはずだ。
マイクロソフトもそれはわかっているようで、Surface Laptopでは、Windows 10 SからWindows 10 Proへのアップグレードが「年内無料」となっている。作業もマウスで2クリックと簡単で、リスクもない。Surface Laptopの購入を考えている方は、購入後すぐにアップグレードすることをお勧めする。
一方で、マイクロソフトが「インストールに制約をかけたい」という気持ちもよく分かるし、そこには利点もある。もし、Windows Storeから配布されるアプリがもっと多く、日常的に使うアプリのほとんどがラインナップされていたとしたら、そこまで大きな不満は感じないだろう。
例えばマイクロソフトは、Appleと共同で、年内にiTunesをWindows Store経由で配布する準備を進めているし、Win32アプリをWindows Storeで配布するためのサポートも用意されている。スマホの快適さをパソコンに持ち込む、という意味では、Windows StoreをベースにしたWindows 10 Sのアプローチは間違いではない。逆にいえば、「Windows 10 Sでも困らない」状態にいつできるかが、マイクロソフトの中期的な狙いである、と考えていい。我々が「パソコンのOSとしてWindows 10 Sを積極的に選ぶ」のは、その時まで保留して良さそうだ。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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