温暖化で魚が小型化? 水温の上昇と酸素不足が影響か

日経ナショナル ジオグラフィック社

2013年のポーリー氏とチャン氏の研究成果については、単純化しすぎという批判があった。2017年の初めには、ヨーロッパの生理学者のグループが同じ「Global Change Biology」誌で、ポーリー氏の理論に根本的な部分に欠陥があると述べた。

そこで、ポーリー氏とチャン氏は、さらに洗練されたモデルをもとに、理論の再検証をおこなった。

新しい論文では、以前に取りあげたケースを再度吟味し、エラ理論の説明を進めるとともに、それが基本原理として通用するものであることを改めて主張した。さらに、もともとの結論では、魚がまもなく直面するであろう問題の規模を過小評価していたことも明らかにしている。

たとえば、2013年の論文では、マグロなどの大型魚は気候変動による影響をあまり受けない可能性が指摘されていた。しかし、新しい研究では、泳ぐ速度が速く、つねに動き回っているマグロは、酸素を大量に消費するため、他の魚よりも影響を受けやすい可能性があるとしている。

チャン氏によると、熱帯大西洋の一部では、実際に外洋の酸素の量が減っている海域が多いという。マグロがそういった海域を避けているという研究もある。

「マグロは、こういった低酸素海域との境界線に沿って分布しています」とチャン氏は言う。

見解は真っ二つに

魚の専門家の中にも、ポーリー氏とチャン氏のエラ理論や今回の新たな研究を支持する人々がいる。

ノルウェーにあるベルゲン大学の生物学教授で、アフリカの魚を研究しているイェッペ・コリング氏は、ナイルティラピア、グッピー、そしてザンビアやビクトリア湖に生息するイワシの一種などの小型化を説明できるのは、ポーリー氏のエラ理論をおいて他にないという。「これは、私がアフリカで見てきた現象をたしかに説明するものです」とコリング氏。

カナダ、サイモン・フレーザー大学の海洋生物学者であるニック・ダルビー氏も、みずからの研究がポーリー氏の理論と「一致する傾向にある」としており、「魚が重くなれば、やがて酸素の摂取量が代謝に見合わなくなることは絶対に避けられない」と述べている。

ドイツ、ブレーメン大学とアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所の海洋動物生理学者であるハンス=オットー・ポートナー氏は、この研究からは、魚が海の変化にどの程度順応できるかが示されていないという。しかし、魚の成長や水温の変化に対する敏感さが酸素と関係しているという点は「納得がいく議論」だと話す。

対して、批判的な意見もある。過去にもポーリー氏に反論したノルウェー、オスロ大学の生理学者シャニー・ルフェーブル氏は、2017年初めに発表された批判的な論文の筆頭著者だ。同氏は依然としてポーリー氏のエラ理論に欠けている点を指摘し、「われわれの議論への反論には、何も感じませんし、納得もしていません」と話す。さらに、「新しい結果の方が信頼できるとも考えていません」とも述べている。

ルフェーブル氏は、魚にはエラを成長させる能力があり、「体と同じ速度でエラが成長するのを妨げる『幾何形態的な制約』など存在しません」と言う。

ただし、ルフェーブル氏もポートナー氏も、さらなる見解はないという。ルフェーブル氏は、生態学者やモデル提唱者は、このような統一理論を受け入れる前に、「偏見を持たず、注意深く見てほしい」と話している。

一方で、ポートナー氏は、ポーリー氏とチャン氏の研究は、理論の証明に向けて正しい方向に向かっていると述べる。

ポートナー氏は、この新しい研究は「広くあてはまる理論をさまざまな生物の観察に注意深く適用してみれば、ほかのやり方ではなしえない発見につながる可能性がある」ことを示していると付け加えた。

(文 Craig Welch、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年8月24日付]

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