それはケンカ別れ 交渉打ち切りで避けたい3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(41)話を終わらせる
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回は、交渉を打ち切る場面です。
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相手は会社でも同僚でも構いません。何時間もかけて、いや何日も何週間もかけて、話し合っているのに、どうしても結論に達しない場合があります。もうやるべきことはやった、これ以上話し合っても双方のためにならないという場面で、こちらの気持ちを述べるのはなかなか大変なことですが、先のことも考えながら上手にその局面を乗り切ることも覚えておかなければなりません。
正しい訳:もうこれで終わりです。
影の意味:お前とはもう会いたくない!
かなりはっきりした意思表明です。恋愛関係や友人関係で感情的になった場合に使うことはありますが、ビジネスではまず使いません。かなり決定的な別れのセリフになります。
正しい訳:もうこれ以上はお話できません。
影の意味:私としては続けたいのですけど……
この場合の can't は「許可されていない」を意味します。すなわち、「本心では続けたいけど、止められている、許可されていない」ということになります。
正しい訳:もう諦めます。
影の意味:あなたの勝ちです。(あなたの言うとおりにします)
give up は「諦める」⇒「お手上げ」⇒ 「降参する」 すなわち、この場合は「私の負け、あなたが勝ったのだから、あなたの言うとおりにします」となります。
give up は場面によってはこのよう流れになります。場面に見合った使い方を心がけましょう。
これなら「影の意味」はない!
これ以上話を続けるのは建設的ではありません。
「建設的でない/生産的でない」はこのような場面では大変使い勝手のよい言葉です。感情的ではなく、理論的、かつ冷静に聞こえます。このようにひとつの流れを止めて終わりに持っていくことは悪いことではありません。
このお話からは撤退することに決定しました。
まず、この文の主語がwe であることに注目しましょう。 「私」個人の意見ではなく、we 「わが社」の総意であることを告げることによって、あなたが単なるメッセンジャーであることも伝えられますので、不要なゴタゴタが起きる可能性もありません。withdraw「撤退する」は「身を引く」ニュアンスがあり、stop よりもソフトに伝わります。
これは時間の有効な使い方ではありません。
この場合のour は「わが社の」ではなく 「私(たち)とあなた(たち)双方の」の意味になります。「そちらにとっても利点がない」と伝えることも大切です。
これら3つの表現の後には、Let's keep in contact.「今後も連絡を取り合いましょう」あるいは Let's look for opportunities to work together in the future. 「将来、一緒にお仕事する機会をまた模索しましょう」などのひと言を加えることで、今後の可能性につなげることもできます。
あなたが知らない本当の意味 ―― finish
finish は「終わる(自動詞)」「終える(他動詞)」のほかに「名詞」としての働きもあります。
・If I finish early, I'll let you know. 早く終わったら、知らせますね。
*finish early:(予定、通常よりも)早く終わる
・If you train hard, you might finish first. 一生懸命訓練すれば、一番でゴールできるかもしれませんよ。
*finish first:1番で終える、すなわち「一番でゴールする」の意味。この場合のif … は「仮定法」ではなく、「条件」を表しています。実現性が高いことに言及する場合は「条件」と考えます。
・I haven't finished my MBA yet. まだMBAを取得していません。
MBAを終えていない、すなわち「MBAを取得していない」という意味になります。finish university なら「大学を卒業する」の意味になります。
・The project isn't going smoothly, but let's finish in style. プロジェクトは順調には進んでいません。でも、堂々と終えましょう。
* finish in style:堂々と終える、見事に終える
・I'm finished with her. I never want to see her again. 彼女とは終わったわ。もう2度と会いたくない。
* be finished with:~絶交する、関係を断つ
* I'm not finished with you. なら「まだ話は終わっていないわよ」あるいは「まだ用件は終わっていないわよ」のような意味で使われます。これは厳しい話の場合、「説教はまだ終わっていないよ」という上から目線のひと言です。
・If ABC lower their prices, it will finish us off. もしABC社が価格を下げなければ、わが社はダメになってしまう。
*finish off には「とどめを刺す、破壊する」の意味があります。すなわちfinish us off で「わが社に止めを刺す、わが社がだめになる」ということ。
*finish off のような<他動詞+副詞>の句動詞では、目的語が代名詞の場合finish us offのように目的語を動詞と副詞の間に挟みます。
・George got off to a bad start, but he finished strong. ジョージは幸先の悪いスタートを切りましたが、最後まで踏ん張りました。
*finish strong:最後まで踏ん張る、頑張る
・Would you like to finish up with coffee and dessert? コーヒーとデザートで締めくくりましょうか?
*finish up with:~で締めくくる 「締めにコーヒーとデザートにしましょうか?」という意味合いになります。
・This table has a beautiful finish. このテーブルは美しい仕上がりです。
*finish (名詞)には「終結、終わり」などの意味がありますが、この場合は「仕上がり、仕上げ」の意味になります。
・I don't think ABC will give up. It's a fight to the finish. ABC社が諦めるとは思いません。これは決着がつくまでの戦いです。
*この場合のfinish (名詞)は「最終段階、決着」の意味があり、fight to the finish は「決着がつくまでの戦い、勝敗が決するまでの戦い」ということになります。
「終わり」を表すのは、finish の他にend があります。工芸品や美術品の「仕上げ」はfinish になりますが、end は使いません。ここから分かるようにfinishには「完遂する、きちんと手順を踏んで最後までやり遂げる」の意味になります。 I finished writing a proposal last night. であれば、「昨夜企画書を書き終えた」、すなわち「企画書は完成した」ことになります。
一方、end には「完遂、完了、達成」などの意味を特に考慮に入れず、継続していたことを「(とにかく)終える、切り上げる」の意味になります。 I ended writing a proposal last night. であれば「昨夜、企画書を書くのを途中で終えた、切り上げた」ということであり、これは企画書が完成していないことを意味しています。
The sales meeting ended / finished at 4:00 this afternoon. 「営業会議は午後4時に終わりました」のような場合は、どちらを使ってもOKです。このように互換できる場合もあります。どちらを選ぼうかという場合は、状況を少し頭に描いてみると分かりやすいでしょう。
Stay on the road to success!
:D セイン
※デイビッド・セインの「ビジネス英語・今日の一場面」は木曜更新です。次回は8月31日の予定です。
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。