何を選べばいいのか!? スーツの4つの仕立て方
ファッションコンサルタント / 評論家 黒部和夫

ビジネスパーソンの外見力を向上させるために、まずは手っ取り早く効果が極めて高い方法が、正しいサイズのスーツを身につけることです。連載第1回に書いた「スーツサイズ5カ条の御誓文」の(1)着丈(2)袖丈(3)身幅(4)襟元(5)裾丈――のサイズを正しくするだけで、あなたを魅力的な男性に変身させてくれるはずです。スーツの仕立て方には次の4種類があり、それぞれの利点があります。
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スーツの4つの仕立て方
1. 既製服(レディーメード)
量産工場にてマシンメードで大量生産するので比較的安く手に入ります。極端に安い物もありますが、30歳以上の方は品質のことを考えると7万円以上のものが良いでしょう。
着用した時のイメージが分かりやすいのも利点です。既製服はベストバランスで設計されています。このため、それに身体を合わせることで体形維持にもつながります。スラックスの裾丈調整だけであれば、短期間で着用できるという利点もあります。
2. パターンオーダー(既製服を用いたイージーオーダー)
自分のサイズに近い既製服や、「ゲージ」と呼ぶサイズサンプルを着用して細かい補正をして行きます。パターンオーダー料金がプラスされても量産工場にてマシンメードで縫製するため、比較的安く手に入ります。既製服同様、30歳以上の方は7万円以上のものが良いでしょう。
既製服を用いてサイズだけ合わせていくので、着用した時のイメージが分かりやすいのも利点です。また、身長の高い方、小柄な方など縦方向の調整に向いており、上着と組下スラックスのサイズが違う方にも向いています。出来上がりまでは約1カ月かかります。

3. イージーオーダー(パーソナルオーダー)
自分のサイズに近いゲージを試着して細かい補正をして行きます。イージーオーダー専用工場にてマシンメードで作るため、近年は既製服と変わらない5万円代から作れるようになりました。30歳以上の方は芯地や仕立て方がワンランク上の7万円以上のものを選びましょう。もちろん高価な生地を選べば価格はそれ以上になります。
最近はクラシコイタリア、ブリティッシュ、アメリカントラディショナルなど、仕立て上がりのスタイルが明確なものが増えて、着用した時のイメージが分かりやすくなりました。素材、ボタンなどの付属、デザイン、ディテールが自由に選べるうえ、体が後方に反った「反身体」、前かがみの「屈身体」、いかり肩、なで肩などの体形に応じた補正もできます。一般の方はもちろんのこと、学生時代にスポーツをしていて筋肉が発達した方には特にお薦めです。仕上がりまで1カ月ほどかかります。
4. オーダー
既製服の3~5倍以上の価格ですが、縫い代をたっぷり取っているため、将来体形が変化した場合も仕立て直しができて、長い目でみると結局は安くつきます。
その人のための1着を熟練した職人さんがハンドメードで縫い上げるので、費用と時間はかかりますが、自分にぴったりのサイズで出来上がり、満足度も比べものになりません。
先の3種類の仕立て方と異なるのが、途中で「仮縫い」という工程が入る点です。このため出来上がりまで3~6カ月かかります。
ちなみに英語では「ビスポーク」、イタリア語では「ス・ミズーラ」と言います。「オーダー」という言い方は日本だけで、海外では通じません。
これが本当のスーツの仕立て方だ
1. 既製服の仕立て方
実際のスーツの仕立て方を松屋銀座5階紳士服フロアにある「アトリエメイド」で取材しました。
こちらの売り場は、通常はオーダーでしか用いられない、全工程を一人の職人が縫い上げる「丸縫い」によるスーツの既製服があることで知られています。ジャケットが5万円代からという手ごろな価格の既製服にもかかわらず、袖を通すと思わず「あっ」と声を上げることでしょう。それまで経験して来た着心地と明らかに異なるからです。
開発を担当した紳士服の名物バイヤー、宮崎俊一部長にその秘密を尋ねると、(1)首を支える第7頸椎の部分にしっかりジャケットの中心が乗るように作られているために服の重みを感じない(2)熟練した職人による手間暇をかけたアイロンワークで、まるで服が身体を優しく包み込むように感じる(3)アームホール(袖の付け根部分)よりも1センチメートル以上も周囲の長い袖側の生地を入れ込みながら縫製しているため、腕の可動性が高い――と3つのポイントを挙げてくれました。
大量生産工場ではなしえないオーダーの技術が盛り込まれている既製服がアトリエメイドの「丸縫いスーツ」だということが分かります。
2. パターンオーダーの仕立て方
アトリエメイドでは、パターンオーダーも扱っています。その手順はというと、まずは「生地選び」。それに伴いデザイン選び、ボタン及び裏地などの付属選びをします。次に「サイズ選び」。胸囲をベースにサンプルに袖を通しながら採寸し細部を調整します。30カ所以上の「オプション」があるので、パターンオーダーにもかかわらず、イージーオーダー並みの自由度があるのとのことでした。


宮崎部長にそれぞれの良さを尋ねると、「丸縫い既製服は最上級の品質で快適なスーツが欲しい時に適しています。パターンオーダーは服で『遊ぶ』ことができます」との答えが返ってきました。
3. 本場ビスポークテイラーの仕立て方

本場の仕立て方を取材するために、フィレンツェのサルトリア(イタリア語でビスポークテイラーに相当)「Shibumi」のオーナー、ベネディクト・フリースさんが来日して開催した「トランクショー」に伺いました。「トランクショー」とは、ビスポークテイラーが他国に赴いて採寸する受注会のことです。早速、ブレザーとトラウザーズ(スラックス)をオーダーしてみました。
まずは「生地選び」、続いての「メジャーメント(採寸)」は(1)総丈(2)肩巾(3)チェスト(胸巾)(4)ウエスト(5)ヒップ(6)スラックス丈外側(7)スラックス丈内側――の順番で寸法を取って終了になります。所要時間は「生地選び」で15分、「メジャーメント」で15分、合計30分でした。


次いで、「仮縫い」となります。通常、日本で開催するトランクショーは年2回というビスポークテイラーが多いのですが、ベネディクトさんは年4回来日しています。私は8月上旬に採寸したので、次回来日する11月に仮縫いを試着して細かい補正をして行きます。受け取りは、おそらく年明けの国際宅配便になるでしょう。
時間と費用はかかりますが、既製服とは比べものにはならない満足感があるのが、ビスポークスーツの魅力です。

4つの仕立て方から何を選ぶか
最後にビジネスパーソンがスーツを仕立てる際、何を選んだらいいのか、年代別に基準をまとめました。「外見力」向上のために、ぜひ参考にされて下さい。
20歳代=5万円程度の既製服
30歳代=7万円以上の既製服、パターンオーダー
40歳代中間管理職=パターンオーダー、イージーオーダー
50歳代管理職=イージーオーダー、オーダー
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