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「東京フィルは家族」チョン・ミョンフンとの共演力

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NIKKEI STYLE

韓国出身の世界的指揮者チョン・ミョンフンさんが東京フィルハーモニー交響楽団と秀演を重ねている。東京フィルとは長年の付き合いだが、2016年からは名誉音楽監督を務め、相性の良さが増している。このコンビならではの劇的な感動を呼ぶベートーベンとマーラーの交響曲を中心に、確かな信頼関係が生み出す音楽の力について聞いた。

「ベートーベン作品の中でも最高のもの。第1主題は非常にシンプルで美しいテーマだからこそ最も弾くのが難しい」。7月26日、東京オペラシティリサイタルホール(東京・新宿)での東京フィルのリハーサル。チョン・ミョンフンさんは何度も指揮を止め、楽団員に向けて人生論とも哲学ともいえる話をする。練習したのはベートーベンの「交響曲第3番変ホ長調作品55『英雄』」。15分程度の第1楽章だけで、話を交えながらたっぷり1時間かけて繰り返し練習する。楽団員らは彼の語りにうなずき、楽譜にメモを書き込む人もいる。音楽は明らかに精彩を増して生き生きとしてくる。

激情ほとばしる感動的なベートーベンとマーラー

「リハーサルでいつもこんなにしゃべっているわけではない。ビジネスの関係ならばもっと効率的に進めようと思うが、東京フィルは私の日本での家族のような人たちだ。時間をかけて一緒に楽しむことができる」と彼は言う。この日のリハーサルでは、ベートーベンの音楽のシンプルな面とその偉大さを唱えていた。単純なテーマを様々に積み重ね、変容させて展開していく「主題労作」という手法だ。「交響曲第5番『運命』」の第1楽章と同様に、「英雄」の第1楽章第1主題にもこの手法が当てはまる。「シンプルなテーマの中に人生と同じような多様性がある。人間の物語を演奏してほしい」。そうした深みのある言葉からいつしか彼独特の音楽世界に楽団員が引き込まれているのが分かる。

チョン・ミョンフンさんと東京フィルの関係は長い。韓国ソウル生まれで、姉は言わずと知れた名バイオリニストのチョン・キョンファさん。彼は米ジュリアード音楽院でピアノと指揮法を学び、まず1974年のチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第2位となって世界で知られた。その後、米ロサンゼルス・フィルハーモニックで巨匠カルロ・マリア・ジュリーニのアシスタントになり、指揮者としての道を歩み始めた。

独ザールブリュッケン放送交響楽団と仏パリ・オペラ座バスチーユの音楽監督、伊ローマ・サンタチェチーリア国立アカデミー管弦楽団の首席指揮者、そしてフランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を歴任するなど、欧州の一流の楽団を相手に目覚ましい活躍を続けてきた。日本での指揮者としての活動は遅かったが、2001年に東京フィルのスペシャル・アーティスティック・アドバイザーに就任してからは頻繁に来日している。

東京フィルとの最近の共演で目立つのはベートーベンとマーラーの交響曲だ。東京フィルの情熱的な演奏とチョン・ミョンフンさんのヒューマニスティックで深みのある表現とが相まって、激情がほとばしる感動的な音楽を聴かせる。7月にはマーラーの「交響曲第2番ハ短調『復活』」とベートーベンの「交響曲第3番『英雄』」を演奏した。9月15日にはサントリーホール(東京・港)でマーラーの「復活」、9月16、18、21日にはそれぞれ文京シビックホール(同・文京)とオーチャードホール(同・渋谷)、東京オペラシティコンサートホール(同・新宿)でベートーベンの「英雄」を再演する。アジアが生んだ巨匠はベートーベンやマーラーの交響曲を通じて何を語るのか。7月26日のリハーサル後に聞いた(「英雄」のリハーサルとインタビューの様子は映像をご覧ください)。

本番に燃えてエネルギーを発揮する東京フィル

――東京フィルはどんなオーケストラか。

「私にとって東京フィルは日本での音楽の家族だ。大切なのはお互いの理解だ。互いに強い敬意を持つ必要がある。一般にプロの指揮者とオーケストラとのビジネス的な関係はそこまで深くないものだ。しかし私はやっと自分がプロの音楽家という立場から抜け出せる年になった。本当に好きで、互いに理解し合える音楽家とだけ一緒に仕事ができる環境になった。その一つが東京フィルだ。彼らは私の家族の一員だ。東京フィルはいろんなレパートリーを演奏できる柔軟性を持つ。アンサンブルが素晴らしい。本番になると燃えてきて、ものすごいエネルギーが出てくる。例えば、東京フィルと先日演奏したマーラーの『復活』は、(合唱が入る)最終楽章で詩のメッセージと音楽が組み合わさって、打ちのめされるような圧倒的なインパクトを出せた」

――ベートーベンの「交響曲第3番『英雄』」のリハーサルでは言葉でも細かい指示を出していた。どんな表現を目指しているのか。

「ヒーロー(英雄)とはベートーベン自身のことだったのではないか。あるいはベートーベンが思い描いたヒーロー像ということだろう。ただ、音楽として具体的なヒーローを描こうとしたわけではない。もっと大きなレベルでの人間の葛藤を描いている。例えば、第1楽章には葛藤や冒険や困難など人生のあらゆるものがある。第2楽章は葬送行進曲だが、一人のヒーローにとってではなく、世界にとっての葬送行進曲だと思って指揮している。素晴らしい作曲家の中でも特に素晴らしい作品がある。この交響曲はまさにそうした作品であり、ほとんど奇跡の領域に達している。一つの交響曲で人生全体を経験できるのは驚くべきことだが、この作品はさらに高い精神世界を見せるのがすごい」

――ベートーベンの交響曲をよく指揮するが、どこに引かれるのか。

「指揮者としてもピアニストとしても二重にベートーベンを愛している。ピアニストにとってもベートーベンのピアノソナタなどの作品は基本にある。指揮者にとってはすべてのオーケストラ作品の基盤にベートーベンの9つの交響曲がある。私のベートーベンへの愛は音楽にとどまらない。個人的に人間としての彼を敬愛している。彼の音楽は人間のもがく姿を表している。強さと正直さがある」

――具体的にベートーベンの音楽のどんな点が好きか。

「シンプルなところだ。例えば、交響曲第5番『運命』の第1主題はダダダダーンという、なんだこりゃとあきれるほど単純なものだ。交響曲第9番(第九)の第1楽章になると、タター、タター、とたった2音で第1主題を作っている。見かけはシンプルだが、非常に難しいコンセプトだ。シンプルというのは、すべてがそこに込められていなければならない。シンプルなフレーズを持つ音楽は実はとても豊かで複雑なものを内包する作品だといえる。音楽家としての私の目標はシンプルな次元に到達することだ。経験を積んで研究する中で、外側がシンプルで中身は豊かだという作品に取り組めるようになる。シンプルに見える作品は、深く掘り下げて初めてその深さが分かる」

――シンプルな次元にどう到達するのか。

「シンプルさは純粋さと呼んだほうがいいかもしれない。すべては人生経験の反映だ。人生は3段階に分けられる。第1段階は純粋な子供の頃で、強く大きくなろうとし、様々なことを学ぶ。第2段階では人間は働き続け、結婚し子供に恵まれることもある。そして幸運ならば我々は人生の第3段階に進める。そこは第1段階に似ているが、大きな違いがある。人間は子供の頃のような純粋さやシンプルさを持ち続けたいと思う。第3段階では長年の勉強と仕事を通じてより豊かなシンプルさを得られるようになる」

半袖シャツから出た腕に鳥肌が立つほど感動

7月23日、東京・渋谷のオーチャードホールでチョン・ミョンフンさんと東京フィルによるマーラー「交響曲第2番『復活』」のリハーサルを見た。ドイツの詩人フリードリヒ・ゴットリープ・クロプシュトックの詩にマーラーが加筆した賛歌「復活」をソプラノとアルトの独唱、四部合唱が歌う第5楽章だ。楽団員と合唱隊が入場する前に彼が入念にチェックしていたのは、金管楽器と打楽器奏者による「バンダ」と呼ぶ別動隊の音響だった。ホールの上階に陣取ったバンダに対し「音がちょっと弱い」などと言いながら、音量をチェックしていた。こうした別動隊からの響きを含め立体的にスペクタクルに鳴り渡るのが、巨大な「復活」交響曲の特徴だ。

合唱へと向かう終結部では、まず大編成のオーケストラによる交響の中からトランペットが高らかと「復活」のメロディーを鳴らした。チョン・ミョンフンさんの指揮は遅くどっしりとしたテンポで、最近では珍しいほどにユダヤ風、オリエンタル風の巨大な音の構築物を実現していた。交響の深みに隠れがちだった金管や木管の意外なフレーズも聞き取れる演奏で、合唱とオーケストラの壮大な響きが相まって、これぞマーラーというべきクライマックスを築き上げた。

東京フィルはオペラを演奏する機会が多い。イタリア人のアンドレア・バッティストーニさんを首席指揮者に迎え、イタリアオペラも頻繁に手掛けている。その経験はラテン風のきらびやかな響き、劇的盛り上げ方などに表れている。東京フィルのこうした性格はチョン・ミョンフンさんの感情過多の表現との相性もいい。楽団員はどう見ているのか。ビオラ首席奏者の須田祥子さんは「彼が半袖シャツを着ていると、音楽的に素晴らしい瞬間、腕に鳥肌が立っているのが分かる。本人もめちゃめちゃ感動しながら音楽をやっている。音へのこだわりと魂のレベルが違う。彼の感動をいかに共有できるかが楽団員にとって大事だ」と話す。トランペット首席奏者の古田俊博さんは「とてもエネルギッシュで、僕たちの個性を引き出してくれる指揮者だ。一瞬で自分の世界に僕たちを引きずり込むので、短時間でも内容の濃いリハーサルになる」と指摘する。

――最近の東京フィルとの共演ではマーラーの交響曲も「第6番」「第5番」、そして今回の「第2番」と指揮してきた。マーラーについてはどんな考えを持っているか。

「マーラーは非常に複雑な性格で、苦悩の人だった。しかしマーラーはひとたび作曲に取り組む段になると、悩みや疑念はなかったと思う。別次元の世界に没頭することができたからだ。マーラーの作品は複雑で難しいと言われがちだが、指揮者にとってはベートーベンよりもずっと簡単だと思う。マーラーの音楽では複雑さが非常にうまく構成されていて、楽譜に明確に書いてある。どんなに複雑に見えようとも、楽譜に明示されているのだから、込み入ったものをシンプルに解釈することが重要になる」

ベートーベンや「ヒーローズ」が人生を変える

日本は明治維新を契機に西洋音楽を取り入れ、日本古来の音楽芸術と融合させながら独自の近現代音楽を生み出し、演奏水準も欧米と肩を並べるまでに発展させてきた。信州高遠藩士の家に生まれた伊沢修二が初代校長となって東京音楽学校(現・東京芸術大学)を開校して今年で130周年。日本は音楽先進国としてアジアをリードしてきた長い歴史を持つ。こうした中で今やアジア諸国・地域からも続々と優れた演奏家や作曲家が生まれている。世界トップクラスの指揮者であるチョン・ミョンフンさんは、アジアの音楽家としてどんな展望を持っているのか。

――アジア、特に日本で指揮をする際に特別の思いはあるか。

「国ごとにオーケストラの違いを考えるのは好きではない。ただ、指揮者として日本で仕事をするのは夢だった。特に東京フィルと一緒に仕事をするのは夢のような楽しみだ。彼らは非常に質の高い仕事をするからだ。楽団員は練習の前によく準備をしてくる。しかも彼らは親しみやすくて、私に協力する気持ちにあふれている。私はイタリアでも長年仕事をしてきたし、イタリアを愛しているが、そこでは準備ができていないために手を煩わされることが多かった。日本ではそんなことはない。東京フィルとは音楽のことだけを考え、音楽の話をし、音楽に集中できる」

「いま韓国は北朝鮮との南北分断の問題で本当に憂慮すべき状況にある。私は1997年に(アジア諸国・地域の演奏家から成る)アジア・フィルハーモニー管弦楽団を創設し活動してきた。本物の音楽こそが人々を助け、アジアに友好をもたらすと考えるからだ。私はアジアの若い音楽家を育てる手助けをしたい。さらにそれ以上に、音楽による社会貢献を考えていきたい」

不穏な情勢が続く東アジアで音楽はどんな役割を果たせるのか。東西冷戦時代はデビッド・ボウイがベルリンの壁の傍らで「ヒーローズ(英雄夢語り)」を歌った。無力に見える音楽が社会を変えるのは、シンプルなものが豊かな内容を持つのと似ている。チョン・ミョンフン指揮東京フィルはベートーベンやマーラーの音楽を通じて人々に大きな感動をもたらし、一人ひとりの人生を変えていく。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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