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シェリル・サンドバーグ「悲しみから立ち直る方法論」

2017/8/11

著者のシェリル・サンドバーグ氏(左)、アダム・グラント氏 Author photograph by Matt Albiani

 ずっと一緒にいると思っている大切な人がいつまでもそばにいるとは限らない。当たり前の日常の幸せが突然崩れてしまったとき、人はどのようにして痛む心を回復に向かわせ、笑顔を増やし、以前のような生活に戻っていけばよいのでしょうか。

 米フェイスブックのCOO(最高執行責任者)であり、世界的ベストセラーとなった「LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲」の著者であるシェリル・サンドバーグ氏は2年前、休暇で滞在していたメキシコで突然、最愛の夫を失います。悲しみのどん底から一歩ずつ立ち上がって、歩み出すまでを描いた「OPTION B(オプション・ビー)」。米国では既に30万部が売れ、「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラーのブックリストでもノンフィクション部門で1位を獲得しています。

 自身も夫を亡くした後に2人の子どもを育て、僧侶となった玉置妙憂さんとともに本書を読み解きます。

「OPTION B オプションB――逆境、レジリエンス、そして喜び」(日本経済新聞出版社、1600円・税別)

■喪失、逆境、挫折から立ち直るための方法論

 タイトルの「オプションB」とは「次善の選択肢」。人生の選択肢はいくつもあり、1つめの選択肢(オプションA)が無効となった場合は2つめ(オプションB)を選んで前に進むしかない、という意味が込められています。

 シェリルの夫、デーブ・ゴールドバーグ氏は旅先のホテルのジムでトレーニング中、突然の心不全によって47歳という若さで世を去ります。その直前まで、プールサイドで彼とiPadで ゲームをしていたシェリル。デーブ氏はトレーニングマシンのそばに横たわった姿で発見され、夫を失った彼女は絶望します。そんな彼女を支えたのは、世界的に有名な心理学者で本書の共著者、アダム・グラント氏でした。本書は、夫の死後にアダム氏との対話を通して、人生における喪失や困難の乗り越え方、レジリエンス(回復する力)の鍛え方を描いています。

 「私の夫は突然死ではなく病気で亡くなりました。シェリルさんとは違う送り方ではありますが、伴侶を亡くした後のむなしさ、混乱の気持ち、絶望感はわかります」(玉置さん)

(本書より)――デーブを失った。最愛の人を亡くせば、さびしさややるせなさを感じることは予想できる。怒りを感じることも予想できる。でも、予想外なのは――少なくとも私にとって予想外だったのは――トラウマのせいで人生の何もかもに自信がもてなくなることだ。このような自信喪失は、3つのPのひとつ、普遍化の兆候のひとつである。ある分野で苦境に陥ると、ほかの分野の能力にも急に自信がもてなくなる。(中略)するとアダムは、「今日うまくできたこと」を3つ書いてごらん、という。最初は正直気が進まなかった。毎日生きているだけでやっとなのに、会心の瞬間なんてあるかしら?

 ここで出てきた3つのPとは、人が失敗や挫折にどのようにして対処するかを長年研究した心理学者のマーティン・セリグマン氏が、苦難からの立ち直りを妨げる要因として挙げたもの。Personalization(自責化:自分が悪いのだと思うこと)、Pervasiveness(普遍化:あるできごとが人生のすべての側面に影響すると思うこと)、Permanence(永続化:あるできごとの余波がいつまでも続くと思うこと)の3つです。

 そこから脱出するために「今日うまくできたこと」を3つ書く、というのは有効な一つのワークになるといいます。玉置さん自身も同様なことを実践したそうです。「To Do LISTのようにやるべきことを書いて、それが実行できたら消していく。自分ができたということが視覚化されて、達成感が心にインプットされていきます」

■深い個人作業を経て心はよみがえる

(本書より)――ずいぶん昔のことだが、幸福には手入れが必要だと教わった。(中略)喜びの瞬間に目を向けるには、意識的な努力が必要である。人はポジティブなことより、ネガティブなことに注意を払うようにできているからだ。

 本書は悲嘆をひとつひとつ、ハウツーでアプローチしてクリアしていきます。「それらがすべて、読者に当てはまる方法であるとは限らないでしょう。悲しみから立ち直る方法はみな違うからです。合わないと思ったらやめ、合う方法を探してそれを続ければいいでしょう」(玉置さん)

 「仏教的発想で考えると、過去や未来に『とらわれるから』苦しいのです。この世の原理は諸行無常。同じことがずっと続くということはありません。悲しみも同じです。今この瞬間をいとおしく、ありがたいと感じることが大切です」(玉置さん)

 「悲しみの底から立ち上がる過程では、自分ひとりで向き合わなければならない個人作業が必ずあります」と玉置さんは話します。「それは社会や人とのつながりでも癒やすことのできない、自分の力がすべての作業。ゆっくりと時間をかけて、自分が納得する方法で悲しみと向き合っていけばいいのです。対処しよう、克服しようと思えば思うほど、四苦八苦するもの。折り合いを自分でつけていくしかありません」

 最後はこう締めくくられています。

(本書より)――デーブ・ゴールドバーグが生きていた歳月は、世界をよりよい方向に変えた。そして2人で過ごした歳月は、彼が生と死をもって教えてくれたことは、私をよりよい人間に変えたのである。

 起きたことを振り返ったり、悔やんだりするのではなく、苦難のときこそ次の一歩をどう踏み出すかを考える。シェリルがもがきながらも立ち上がっていく過程を、その方法論とともに読み進めていくうち、ふっと力が湧いてくるでしょう。

(ライター 大崎百紀)

※(本書より)の部分は抜粋です。一部を要約しているところもあります。

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