シンガポールでは朝食の定番、肉骨茶

ところがこの料理、驚くことが一つ。ニンニクがいくつも房ごと入っていたのだ。

本当にそんなに朝からニンニクを食べるのかと思っていたら、「うちの店でも房ごとのニンニクを入れていますが、シンガポールではもっといっぱい入れますよ」との声。教えてくれたのは、シンガポールの屋台料理をコンセプトとした店を都内で2店舗経営する中国系シンガポール人のパトリシア・チアさんだ。

「ニンニクいっぱいなのは、元々この料理は、マレー半島に来た中国人肉体労働者、苦力(クーリー)が、スタミナを付けるために食べたものだから。祖父は中国の海南島出身で、苦力だったときもあったのですが、港で重い荷物を運ぶ仕事をする前に肉骨茶を食べたものだと言っていました。その頃は残りもので作った料理ですから、ほとんど骨に肉は付いていなかったそうです」(チアさん)。

海南鶏飯 「シンガポール人は脂が多い鶏モモ肉を使ったものが好き」とチアさん

チアさんの祖父はその後、シンガポールに海南鶏飯(ハイナンジーファン、ハイナンチキンライスとも呼ばれる)などを出す軽食店を開いた。当時はまだシンガポールでもあまり提供店はなかったらしいが、海南鶏飯は、ゆで鶏をこれをゆでたスープで炊いたご飯と一緒に食べるシンガポールの代表料理。

ダークソイソース(濃厚なしょうゆの一種)やトウガラシ、ショウガを使ったソースという3種類のたれを添えて出す。そんな祖父を持つチアさんは、日本に本格的なシンガポール料理を伝えたいと、2005年に最初の店をオープンした。

「シンガポール人は100%食べたことがある」(チアさん)というチャークェイティアオ

チアさんの東京・恵比寿の店「新東記(シントンキー)」で、彼女が「これぞ」と思うシンガポールの代表的屋台料理を教えてもらった。その筆頭が麺料理「チャークェイティアオ」だ。

「シンガポール人で食べたことのない人はいない料理。子供からお年寄りまで、みんなが好きな庶民の味なんです」と言う。言わばシンガポール風焼きそばなのだが、現地の人が「これ!」と思う味にするのはとても難しいのだという。

「調理する際の中華鍋の温度がとても重要なんです。温度が高すぎると料理が焦げてしまうので、その一歩手前で調理する。甘いソースを使った麺料理であるチャークェイティアオは焦げやすいのですが、シンガポール人はみなこの調理温度にすごくこだわりがある。火をうまくコントロールして絶妙な温度の中華鍋で調理する料理人は『ウォッメイ』(中華鍋の味)がある、とほめます」(チアさん)。

「新東記」で幅広の米麺を使ったチャークェイティアオを食べてみた。ツルツルした麺には濃厚な甘さがからまり、具材である脂のうまみたっぷりの中国腸詰がよく合う。「一昨年亡くなったシンガポール建国の父であるリー・クアンユー元首相は、この料理が好物だったと言われているんですよ」とチアさんは教えてくれた。

今では、具材としてエイや中国腸詰、野菜などが入る料理だが、元々、チャークェイティアオは、一番元手がかからず屋台を出せる料理だったのだという。「私が小さいときは、材料は麺ともやしと卵だけ。卵は自分の家から持参して屋台で作ってもらうこともできて、それだとさらに安く食べられたんです」とチアさんは懐かしむ。