夫が先に亡くなった! 義理の両親の介護はすべき?
養子縁組なんて関係ない、という人も多いと思いますが、相続の際の節税対策につながるため検討されることもあります。また、最近提出する人が増えているという「姻族関係終了届」とは何でしょうか。知っておきたい養子縁組、相続などについて、弁護士さんに聞きました。
Case1 夫が亡くなっても義理の両親の介護はすべき?
A.実の親子の場合、実質的に縁を切ることはあり得るかもしれませんが、法的に縁を切る方法はありません(養子縁組にて親子となった場合には、養子離縁届にて、その関係を解消することは可能です)。
では、実の親子である場合、親を扶養する義務があるのか。
親子間には,お互いに扶養する義務(生活扶助義務)があります(民法877条)。とはいえ、自分の身を削ってでも親を扶養しなければいけない、というわけではありません。親に対する義務の具体的な内容や方法は、子どもが自らの収入や地位などにふさわしい生活をしたうえで、その余力の分でいいとされています。過去の親子関係、たとえば虐待があったなど、状況次第では扶養義務自体が発生しない可能性もあります。
芸能人の親が生活保護を受けていたことが、ニュースなどで取り上げられていた時期もありました。まさしく親への扶養義務が関わってくる話です。生活保護については、法律の改正があり、扶養義務者に対する資産や収入の調査が強化されるなどしましたので、従来よりも、子どもの扶養義務が求められる時代になるかもしれません。
ちなみに、配偶者の血族(義両親など)との関係を、こちらから一方的に届出を出して終了させる「姻族関係終了届」というものがあります。
配偶者が亡くなった後、配偶者との婚姻関係は終了しますが、配偶者の血族との関係(姻族関係)は残ったままです。この場合に、姻族関係を終了させるものが、上記にある「姻族関係終了届」です。
義両親との関係がうまくいかなかったことから、配偶者の死後、義両親の介護などはできないなどを理由に届け出されたりします。三親等内の姻族に関しては、扶養する兄弟が他にいないなどの特別な事情がないかぎり、法律上、扶養義務が課せられてはいないのですが、精神的に清算したいと思われている方もいるのでしょう。他には、同じお墓に入りたくない、夫との関係に区切りをつけて前に進みたい、などなど理由は様々です。
親子関係といっても、十人十色、様々な事情があります。自分に合った選択肢は何なのか、考えてみられるのもいいかもしれません。
CASE2 養子縁組で親子関係はどうなるのか
A.一般的になじみが薄いと思いますが、まず話の前提として、節税のための養子縁組はOKなんです。
相続税対策のためにあえて養子縁組をされる方も多いです。例えば、自分の義理の父親に自分の子どもを養子縁組させる、といった場合です。こうすることで、相続人が増えることになるので、相続税の基礎控除額が増える、生命保険金の非課税限度額が増える、などの相続税対策になるのです。
ただ、孫を養子とすることで、他の相続人とのトラブルになることも十分考えられるところです。ちなみに、ご質問の例のように義父との間に養子縁組(特別養子縁組は除く)をしたとしても、自分との親子関係はそのままです。ということなので、義父との関係はもちろん、自分との関係でも、子どもには相続権があります。
では、養子縁組をたくさんすることで相続税の基礎控除額を増やし、相続税をゼロにすることができるのか。答えは、ノー、です。まず、相続税の基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数、で計算されます(この計算式は、覚えておくと大まかな額を計算するうえでは便利かもしれません)。
税法上、相続税の控除額を計算するうえで必要なこの「法定相続人の数」に用いることのできる養子の数に以下の通り制限をつけているのです。制限を設けることで、控除額を好きなだけ増やすことを防止しています。
(1)被相続人(亡くなった人)に実子がいる場合
「法定相続人の数」に含められる養子の数は1人まで
(2)被相続人に実子がいない場合
「法定相続人の数」に含められる養子の数は2人まで
CASE3 節税対策のための養子縁組で兄弟間トラブル
A.つい最近、裁判にて節税対策のための養子縁組が無効かどうか、問題になった事例がありました。ある男性が、相続税の節税対策のため、孫との間で養子縁組をしました。しかし、被相続人であるこの男性の実子らが、孫に遺産が相続されるのはおかしい、親子関係をつくる意思はなかったということで、この男性と孫との養子縁組は無効だと主張したのです。縁組は、人違いその他の事由により当事者間に縁組をする意思がないとき、無効となります(民法第802条第1号)。
ここが今回の件でのポイントですね。
最高裁判所は、「養子縁組による相続税の節税効果は、養子縁組をする動機にはなるが、このような動機と縁組をする意思とは相反するものではなくて併存し得る、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに無効とはいえない」としたのです。つまりは、節税対策のための養子縁組を有効と認めました。
今までも相続税対策のための養子縁組は行われてきましたので、現状に大きな影響を与えるというわけではないと思います。最高裁がこうした判断を示したことで、縁組が無効となるのは当事者に縁組の意思がない場合などに限られそうです。
相続に関することは、お金持ちにしか関係ない、と思われる方も多いでしょう。しかし、土地・建物・預金などを含めた遺産の総額平均が約4743万円ともいわれておりますので、相続税対策は人ごとではありません。
実際に相続が発生する前に、一度、ご検討されることをおすすめします。
弁護士。東京・大阪・名古屋・神戸・福岡に拠点を持つ「弁護士法人・響」所属。子どもの権利委員会、法教育委員会、消費者委員会、精神保健委員会所属。交通事故・離婚・相続・借金問題など民事案件を主に扱う。テレビや雑誌、新聞などメディア出演も多数。http://hibiki-law.or.jp/
(ライター 小泉恵里)
[日経DUAL 2017年6月28日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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