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はい、そういえます。日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2016年版)でも、「発汗を避ける指導が症状を改善したとするエビデンスはない」と記載されるなど、今では、汗をかくこと自体がアトピー性皮膚炎を悪化させるという明確な根拠はない、とされています。同じガイドラインでは、「発汗を避ける指導は必要ない」として、「汗をかくこと(発汗)」と「かいた後の汗」を区別して考えるように推奨しています。

アトピー性皮膚炎は「汗停滞症候群」?

――ここからは、アトピー性皮膚炎と汗の関係についてお聞きしていきます。先ほど、あせもができたところはしばらく汗がかけなくなるという話が出てきましたが、アトピー性皮膚炎の人も皮膚の炎症が起こります。つまり、アトピーの患者さんは汗をかけないことが多いということでしょうか?

アトピー性皮膚炎の人は、汗をうまくかけない人が少なくないようだ(c)Kaspars Grinvalds -123rf

私たちの研究でアトピー性皮膚炎の人の発汗量を測定したところ、健康な人のおよそ半分以下、発汗刺激をしてから汗が出てくるまでの時間も長くかかることが分かりました。皮膚の温度を下げるにはさっと発汗して速やかに蒸発してほしいのですが、アトピー性皮膚炎の人はじわじわゆっくりとしか汗がかけないのです。

おそらく多くの患者さんは汗をかいているという自覚はあるけれども、じめっと湿っている感じで流れるほどはかけておらず、そういうときに限って皮膚の温度も上がり、かゆみが増します。患者さんの中にはこういった発汗異常がある人が少なくないと思われます。ただし、患者さんの全員が汗を上手にかけないというわけではなく、なかには健康な人と同じように汗をかける人もいます。

アトピー性皮膚炎の人の発汗異常は、歴史的にも古くから指摘されていました。ザルツバーガーは1947年に「アトピー性皮膚炎は汗停滞症候群である」として、汗の出口が詰まってあせものような皮疹ができたり、汗が停滞してしまうことで皮膚が乾燥や感染を起こしやすくなるのではないかと言っています。こうしたことからも、汗をかけないことは問題だと考えられるわけです。

私も日常診療で、「皮膚が熱くなるとかゆくなり、体から熱が抜けないような感じがして、しんどい」と訴えるアトピー性皮膚炎の患者さんほど、ほとんど汗が出ていないことを経験しています。そういう人は、日頃から汗をかく機会が少ないようです。恐らく汗をかかないことが習慣化すると、汗をかきにくくなるのではないかと思います。

また、患者さんのなかには、昔アトピー性皮膚炎があって、改善したけれど、思春期や成人になって再び悪化する人もいます。そうした人に聞いてみると、子どもの頃は運動をして汗をかいていたけれど、今では運動をしておらず、オフィスなど空調環境下で過ごしている人が多いです。もしかしたら、発汗機会が少ないライフスタイルになって、汗をかく反応を起こしにくくなっていることも、アトピー性皮膚炎の再燃と関係しているかもしれません。

――汗をかける人、かけない人、それぞれ治療はどのように進めるのがよいと先生は考えていますか?

汗をかけない患者さんの特徴は、乾燥がひどい、暑いところに行くとかゆみが出やすい、皮膚に熱感がある、そして多くの場合、皮膚のシワを避けて皮疹が出ることです。汗をかけている人の場合は肘の内側、膝の後ろなどのシワに皮疹が出やすい。というのはそこに汗が流れ込んでたまるからです。

こうした臨床症状や発汗試験などから状態を見極めて、それぞれの患者さんに合った治療方針を決めます。汗がかけていないと思われる人の場合は、皮膚の炎症が汗を止めてしまうことがあるので、ステロイド剤などの炎症を抑える塗り薬で治療しながら、汗をきちんとかけることを目標に指導します。

一方、汗がかけている人の場合は、余分な汗を放置することで皮膚の炎症が悪化し、汗をかけなくなっていきますから、汗をかいたあとの対策を優先します。具体的には、「長時間放置しないこと」が大切で、汗をかいたら洗い流す、おしぼりや濡れタオルで汗を吸い取ることが基本です。運動などで発汗する習慣を持っている人などは、かいた汗をこまめに洗い流すだけで肌の皮疹やかゆみが改善していくケースもあります(次回「あせも、かゆみ… 汗の肌トラブル防ぐ5つのコツ」で、衣類や入浴法などの汗対策を詳しくお伝えする)。

――アトピー性皮膚炎の患者さんはどんな心構えで汗と付き合えばよいでしょうか?

アトピー性皮膚炎の患者さんは、汗をかくとかゆいからと汗を恐れている人が多いのですが、「汗をかくとかゆくて」と患者さんが言うときは、私は「そのときこそ症状を改善するチャンスですからケアをしましょう」とお話ししています。かゆみを起こすということはまだ少し治療が必要ということですから、きちんと薬物療法も行います。並行して運動などで発汗する機会を持ち、汗がかけるようになれば、もっと皮膚の熱も冷めるでしょうし、乾燥肌も改善するでしょう。患者さんには、汗をかけるのはいいことだとポジティブに捉え、積極的に取り組んでもらいたいと思います。

次回は、「あせも、かゆみ… 汗の肌トラブル防ぐ5つのコツ」について紹介する。

室田浩之さん
大阪大学医学部皮膚科学教室准教授。1995年長崎大学医学部卒業、2002年長崎大学大学院修了。国立療養所川棚病院(現長崎川棚医療センター)、長崎大学医学部附属病院(現長崎大学病院)などを経て、2004年大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学教室助手となり、アトピー性皮膚炎専門外来などを担当してきた。日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版の作成委員と分担執筆を担当。

(ライター 塚越小枝子)

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