グルテンフリーは健康に害? 穀物摂取の長所損なう
先進国ではグルテンフリーダイエットが流行していますが、グルテンの摂取を減らしても、心筋梗塞などの冠動脈疾患の予防にはつながらず、グルテンフリーに徹するために、体によい栄養素を豊富に含む全粒穀物を食べなくなると、逆に健康に害が及ぶ可能性があることが、米国コロンビア大学のBenjamin Lebwohl氏らの研究で明らかになりました。
グルテンはメタボや循環器疾患のリスクを上げる?
グルテンとは、小麦、ライ麦、大麦、オーツ麦などの穀物に含まれているたんぱく質をいいます。グルテンフリーダイエットとは、グルテンを除いた食事法のことです。冠動脈疾患とは、心臓に酸素や栄養を送る冠動脈と呼ばれる血管が、動脈硬化などが原因で狭くなったり閉塞したりする病気で、心筋梗塞、狭心症などが代表的です。
もともとグルテンは、「セリアック病」という自己免疫疾患の患者が摂取すると炎症を引き起こし、小腸に障害を生じさせることが知られていました。そのため、セリアック病の患者は、グルテンフリーの食事を続ける必要があります。また、セリアック病ではないものの、グルテン摂取により様々な症状が起こる、「グルテン過敏症」の患者もいます。
しかし近年は、「グルテンは、セリアック病ではない人にも炎症を誘発して、肥満や、メタボリックシンドローム、循環器疾患のリスクを上昇させるのではないか」という考え方が広がり、グルテン摂取を控える食事法が流行し始めました。米国で行われたある調査では、セリアック病ではないのにグルテンフリーダイエットを実践する人の割合が増加していることが示されていました。
セリアック病ではない人がグルテンの摂取を制限すると、健康の維持に必要な一部の栄養素が不足する可能性があります。しかしこれまで、グルテンの摂取量と慢性疾患、例えば冠動脈疾患などとの関係について調べた長期的な研究は行われていませんでした。
そこで今回、Lebwohl氏らは、男女の医療従事者を26年間にわたって追跡した研究のデータを分析し、グルテンの摂取量と冠動脈疾患の発症との関係を調べてみたのです。
米国の男女11万人の長期追跡データを分析
対象は、米国の医療従事者を対象とする長期的な研究に参加した人々のうち、当初はセリアック病でも冠動脈疾患でもなく、1986年から4年ごとに2010年まで食物摂取頻度調査を繰り返し受けていた、女性6万4714人と男性4万5303人です。調査回答に基づいてグルテンの摂取量を推定し、その値に基づいて男女別に五等分しました。
1986年時点の、対象者の1日当たりのグルテン摂取量の平均は、最高摂取群の女性が7.5g、男性は10.0g、最低摂取群では、女性が2.6g、男性は3.3gでした。2010年には、最高摂取群の女性が7.9g、男性は9.2g、最低摂取群はそれぞれ3.1gと3.7gになっていました。
予想通り、グルテンの摂取量が多い人ほど、全粒穀物と精製穀物の摂取量も多くなっていました。
26年間(227万3931人-年、注1)の追跡で、6529人(女性2431人、男性4098人)が冠動脈疾患を発症していました。内訳は、心筋梗塞による死亡が2286人(女性540人、男性1746人)、死に至らなかった心筋梗塞を経験した患者が4243人(女性1891人、男性2352人)でした。
最低摂取群の発症率は10万人-年あたり352、最高摂取群では277でした。ただし、既知の冠動脈疾患の危険因子などを考慮して分析すると、最高摂取群と最低摂取群の冠動脈疾患発症リスクに、統計学的に意味のある差は認められませんでした。つまり、長期にわたってグルテンを多く摂取していた人と、少ししか摂取しなかった人の冠動脈疾患リスクに差はないという結果になりました。
グルテンの主な摂取源は全粒穀物と精製穀物です。研究者たちは、それらを分けて分析してみました。すると、精製穀物の摂取量は冠動脈疾患リスクに影響を及ぼさない一方で、全粒小麦の摂取量が多いと、冠動脈疾患リスクが15%低下する可能性が示唆されました。
研究者たちは、「グルテンフリーに徹するために、体によい栄養素を豊富に含む全粒穀物を食べなくなると、逆に健康に害が及ぶ可能性があり、セリアック病ではない人々が冠動脈疾患予防を目的としてグルテンフリーダイエットを行うことは勧められない」と述べています。
論文は、2017年5月2日付の英国「BMJ(the British Medical Journal)」誌電子版に掲載されています[注2]。
[注1]人-年:観察した年数と観察した人数を掛け合わせたもの
[注2]Lebwohl B, et al. BMJ 2017; 357 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j1892 (Published 02 May 2017)
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2017年7月10日付記事を再構成]
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