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忖度させるのは誰か 権力の怖さを知らない「王様」 ダイバーシティ進化論(出口治明)

2017/7/29 日本経済新聞 朝刊

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「忖度(そんたく)」という言葉がこの上半期、メディアでさかんに取り上げられた。他人の心を推し量るという意味だが、一連の報道では権力者の意向をくみ、それに沿うよう行動するという意味合いで使われていた。上の意向を忖度することを「いかにも日本的」と評する向きもある。

しかし世界の歴史を学ぶと、それは日本特有の文化ではなくリーダーの資質に起因する世界共通の現象だと分かる。忖度やゴマすりは、それをよしとするリーダーがいなければ行われない。上に立つ者が理路整然としていて、手厳しい指摘や忠告を受け止める度量さえ持っていれば、忖度など存在するはずがないのだ。

示唆に富むのは、7世紀の中国を率いた2人の皇帝だ。隋の煬帝と唐の李世民(太宗)。同じ一族で、ともに肉親を殺害して皇位に就いた2代目という共通項があるが、リーダーとしての在り方はまるで違った。

権力を思うがままに振るって国を滅ぼした煬帝に対し、李世民は権力の怖さを熟知し、その行使に極めて慎重だった。有能な人材を登用するとともに的確な忠告をしてくる部下を複数身近に置き、厳しい批判や指摘にも耳を傾けた。「貞観の治」と呼ばれる理想の統治は、李世民がつくり上げた自己を律する仕組みの上に成り立っていた。

歴史上の優れたリーダーに共通するのは、権力や権限に対する感覚の鋭さだ。その感覚が鈍いと、自分はなんでもできると思い込むようになる。聞こえのいいことばかり言う部下を重用するので、都合のいい情報しか上がってこなくなる。結果として裸の王様となり、統率力を失ってしまう。

ビジネスでも同じだ。仕事では「報連相(報告・連絡・相談)が大事」と言われるが、権限への感覚を研ぎ澄ませれば、それは上司への戒めの言葉だと分かる。優れた上司は、部下が報告に来るのを待つのではなく自ら現場を回り、何か言いたそうな部下を見つけ、話を聞く。権限を持つがゆえに見えにくくなっていることがたくさんあると自覚し、自分からそれを見に行くのだ。

良きリーダーシップには、良きフォロワーシップが欠かせない。上司におもねることなく正しいと思う意見を表明し、信念に基づき行動する部下が増えることで、組織はより強くなる。部下に忖度させない組織風土をつくることこそ、リーダーの重要な仕事だろう。

出口治明
ライフネット生命保険創業者。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を開業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。

[日本経済新聞朝刊2017年7月24日付]

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