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写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。11回目は最終回。危機に直面したリーダーの役割について、ゴーン氏が答えます。

危機からの脱却、そしてリバイバル

危機に陥った時は、何よりまず脱却する方法を考える

Q ゴーンさんが、1999年に日産自動車に来た時、日産自動車が直面していた危機的状況に対して、どのようなビジョンを描いていましたか。

危機的な状況にある時は、何よりも「どのようにそこから脱却するか」を考え、それを実行することが最優先となります。

現在進行形で起きている危機というものは、自分の周りで火事が起きているようなものです。炎があなたを取り囲んでいる。そうしたなかで「自分は10年後、どうしているべきか」とは考えませんよね。自分の命を守るためにどうすればいいかを考えます。

1999年時点での日産自動車は、まさにそのような、すぐに脱却しなければならない危機に陥っていました。この危機に対して、私は、火の手が強いのはどこなのか、火を強くしている源はどこにあるのか、どのように火事を制御して沈静化させるのかといったことを考えました。まだ、15年後や20年後の日産自動車をどのような企業にしていきたいといったことは考えていませんでした。

火事を収めるめどがついたら、家をどうやって建て直すかを考えます。つまり、会社の基本となる健全性を回復することを考える。それから、将来、日産自動車をどうしていきたいかといった話を始めたのです。

危機的な状況から脱却するために、私は力強い公約を掲げました。1999年3月に日本に来て、3か月後の6月の株主総会で最高執行責任者(COO)に任命されました。そして10月には「日産リバイバルプラン」を発表しました。

このプランで、私は2000年度内までに黒字化することと、2002年度内までに4.5%以上の営業利益を上げることを必達目標にしました。そして、1つでも未達になったら辞任すると公言しました。

危機的状況に直面した時、人は明日のことは考えないと思います。どうやって今ここにある課題を解消して、危機的状況を制御するかに精力を集中させます。明日のことを考えるのは、その危機的状況が終わってからです。

レジリエントなリーダーは「ターンアラウンド」でなく「リバイバル」を目指す

Q 企業が失敗と言える状況に陥っている時、リーダーはどのように対応をとるべきでしょうか。ゴーンさんが実際にこれまで経験した例を含めて教えてください。

失敗が起きた時、リーダーはその状況をどう捉えるか。リーダーによっては、失敗に陥っている企業を、どう転換し、立て直すかを考えることでしょう。一方、レジリエントなリーダーは、失敗が生じている状況を、「変革を起こさなければならない兆候」と捉えます。

組織を立て直すのでなく、組織を変革する。それが、失敗に直面したリーダーのとるべき行動です。

日産自動車は、これまで、企業の業績が悪化した時の対処のしかたとして、「ターンアラウンド」と呼ばれる戦略と、「リバイバル」と呼ばれる戦略をとってきた経験があります。

ターンアラウンド戦略は、日産自動車が20世紀の長らくの間とってきた、組織の立て直し策です。具体的には、資産を削減したり、従業員を削減したりして、状況の悪化を食い止める縮小戦略と言えます。

ターンアラウンド戦略を実行すれば、その後、企業が悪い状況から良い状況に転じ、立て直しが実現するかもしれません。しかし、その効果が続くのは、せいぜい2、3年という短い期間です。その後、ターンアラウンドの勢いは衰え、再び状況が停滞、あるいは悪化することがあります。

これに対して、日産自動車が1999年以降とってきた業績悪化への対処策が、リバイバル戦略です。

リバイバル戦略では、3年後、5年後、10年後、15年後、その先と、会社が成長を続け、実績を上げ続けることを目指す戦略です。私ども日産自動車は1999年に「リバイバルプラン」を掲げ、V字回復を果たしました。そして、このリバイバル戦略で視野に入れていた成長の未来に、今の私どもは存在しています。つまり、リバイバル戦略の効果は、今も及んでいると言うことができます。

企業が成長し続けていこうとする途上では、避けがたい罠に陥ったり、予想外のハプニングに遭ったりもします。

自動車業界で言えば、2000年以降を振り返ってみても、2008年には世界的な経済不況が起きましたし、2011年には東日本大震災が起きました。どの自動車メーカーも例外なく、厳しい時期を経験しました。

しかし、そうした予想外のハプニングに直面することが問題の本質ではないのです。その状況からどれだけ早く脱却し、変革を起こせるかが問題の本質です。そして、それを実行できる能力が、レジリエンスなのです。(おわり)

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載)

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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