ゴーン氏「リーダーに求められるのはレジリエンスだ」
カルロス・ゴーン熱血教室(10)
写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.
カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。10回目はリーダーに求められるレジリエンス(回復する力)について、ゴーン氏が答えます。
リーダーに求められるレジリエンス
失敗はつきもの。それを見越したうえで回復できる力がレジリエンス
「レジリエント」とは「回復する力のある」といった意味ですが、「レジリエントなリーダー」と呼ぶにふさわしいリーダーがいます。
「回復する」ということが意味するものは何でしょうか。回復は、悪い状態になったものが元の状態になること。つまり、レジリエントなリーダーとは、失敗することを経験しながらも、その失敗の状況から回復する力を持っているリーダーのことです。
人は、リーダーであろうとなかろうと、誰しも失敗をするものです。そのなかで、レジリエントなリーダーは、失敗に直面した時、それに対応する力を持っています。
失敗に直面したり、予想外の事態に追われたりすると、誰もが「こんな嫌な状況に陥りたくなかった」と感じます。そして、その人が会社のリーダーであれば、社内外から「あいつはこんな失敗をした」と、批判を受ける対象になります。
そうした悪い状況で、もし、レジリエンス、つまり回復力を持っていなければ、そのリーダーの評判は、その時点でさえ落ちているのに、さらにガタ落ちになります。リーダーが、今そこにある失敗に直面しようとせず、対応を怠れば、その時点でリーダーとしての地位をも失いかねません。あるいは、失敗への対応をアクションとして起こしたものの、その対応がまずくてさらに失敗すると、それも深刻な事態を招きます。そして、リーダーとしての立場から去らなければならなくなるかもしれません。
リーダーに求められているのは、「失敗はリーダーシップにとっての脅威であり、そして、それは自分の人生にも起きうるものである」と心しておくことです。その心があり、実際に失敗に陥った時に、対応を成功裏にすることができる。そんなリーダーこそが、レジリエントなリーダーです。
人の話を聞くことで、問題の徴候を検知していく
トップマネジャーであっても、執務室にこもって報告書などを読んでいるだけでは失敗します。自分達が正しい軌道から外れてきた時、それを検知できないおそれがあるからです。報告書にあがっている数値・データは情報の一部でしかなく、それだけでは状況を検知できません。
では、何が重要かというと、やはり人から話を聞くことです。人と接すると、直接的あるいは間接的に、今の状況を説明してくれます。そして、進んでいる方向性がまちがっていることを示唆してくれます。
もちろん、会う人すべてが口を揃えて「このままではまずいのではないか」と言ってくれるわけではありません。しかし、複数の人の話から、「開発のスピードをもっと高めなければならない」「今はスローダウンしたほうがよい」「このサービスは変えていかなければならない」といったことを検知することができます。
人は、痛みを感じることによって、身体に異常があることを知ることができますよね。その痛みを無視していると大病を患うことになる。経営にも同じことが言えます。人との話のなかで問題の兆候を感じて、その原因を見い出し、そして是正・改善していかなければなりません。
※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載)