オフィスビルに女性の視点 植栽やアロマ、食材販売も
屋上「庭園」で朝食サービス、アロマの香るエントランス――。女性ならではの視点を生かしたオフィスビルが増えてきた。企画したのはデベロッパーの30~40代の女性担当者だが、目指したのは女性だけでなく男性社員にも居心地の良い空間。快適に働ける機能や便利なサービスを盛り込み、特色を打ち出している。
■屋上で緑感じながら「朝活」も
東急不動産が中心になって開発を進め、5月に完成した「日比谷パークフロント」(東京・千代田)。日比谷公園に隣接する大型ビルで、内部には公園に植生する草木がいたるところに植えられている。屋上にも草花が多く植えられた「庭園」があり、ノートパソコンを持ち込めば仕事もできるよう無線LAN環境も整備されている。庭園に併設されたラウンジでは朝食が購入できるサービスもあり、緑を感じながら仕事前に「朝活」を楽しめる。
このビルの企画を担当したのが東急不動産・都市事業ユニットの仲神志保さん(42)。「オフィスは家よりも長くいる場所。一人ひとりが働きたいと思えるような居心地の良い空間をつくりたい」との思いから、無機質ではないオフィスをつくりあげた。緑を多く配置しただけでなく、床や壁といった内装を高級ホテルのような雰囲気に仕上げ、ラウンジの家具を自らこだわって選んだ。業界に先駆けて開発したという「顔がきれいにみえる女子トイレの鏡」の改良版も導入し「女性が気分をアゲて働けるよう工夫した」。
1998年に入社した当初、開発を任されるビルは小規模なものばかりだった。大規模ビルを任される同僚をうらやましく感じたものの、開発担当者は自分だけという状況が続いたことで「かえって人脈と責任感を養えた」と振り返る。大規模ビルを多く任されるようになり、現在は東京都港区の竹芝地区のプロジェクトを担当している。開発にあたっての信条は「オフィスビルばかり見ても発想はその枠を出ない」。ホテルやレストランの内外装を見て歩いたり、海外旅行先でもビル開発のアイデアを探したりする日々を送っているという。
■さりげなくアロマの香り漂うエントランス
オフィス以外での体験を生かした女性のアイデアが生かされているのは、三菱地所が手掛けた東京都千代田区の「大手町パークビルディング」も同様だ。1月に完成したばかりのこのビル、エントランスに入るとほのかな木の香りが漂う。実は働く人にリラックスしてもらう目的で、天然素材でできたアロマを噴霧している。
ビルのプロジェクトマネジャーをつとめた丸の内開発部の山元夕梨恵さん(34)はホテル通いが趣味の一つ。部屋にたかれたアロマでリラックスした経験も多く、「オフィスビルも気持ちが和らげる場所であるべきだ」という持論からアロマの噴霧器をエントランスに導入するアイデアを思いついた。当初は社内から「においを嫌う入居者からクレームが出かねない」などと反対も出たが、香りが広がりすぎない噴霧方法を学んだり、社内でこっそりアロマをたいて良さをアピールしたり努力を続けた。大手町パークビルディングに入居したある企業の社員は「出社時や退社時に気分を切り替えられる」と評価する。
このビルは2階の1フロアが丸々、共用スペースになっているのも特徴。パソコンなどを持ち込んで働ける広いラウンジのような空間や皇居の周りを走った後などに使えるシャワー室、仕事に疲れた際にリフレッシュできる仮眠室、さらには託児所も設けた。「働く人が『あったらいいな』と思う機能をできる限り盛り込んだ」。今は水面下で新しいビルの開発計画に参加中。大手町が世界で戦える街の先端であり続けるためにも、さらに働きやすいビルの企画を考えている。
■野菜宅配大手の料理キット、オフィスで販売
女性ならではの視点でビルの開発やサービスの提供ができないか――。三井不動産は3年前、こんな目的で「ワークライフ・ブリッジ」というプロジェクトを立ち上げた。ビルディング本部の奥村彰子さん(37)は立ち上げメンバーの1人。当初は女性3人だけで始まり、今は男性も含めて十数名で運営する。どういう機能やサービスが必要か、ブレーンストーミングやアンケートを通じて探り、様々なアイデアを試験的に実施している。
その成果の一つが、野菜宅配大手のオイシックスと共同で取り組んだ料理キットの販売。オイシックスは食材がセットになった料理キットを通信販売しているが、購入するためには事前に注文をして指定した時間に帰宅して受け取る必要がある。オフィスで販売すればその手間はなくなるし、思い立ったときにすぐに買える。昨秋に複数のビルで試験的に販売したところ、4日間で450個以上売れたビルもあった。「『子供と一緒に料理ができた』と喜ぶ声もあり、働くママが利便性を求める背景には子供と接する時間が欲しいという思いがあることに改めて気がついた」。再度の販売実施も検討しているという。
ほかにもプロジェクトを通じて、夏休みや冬休みに東京・日本橋で学童保育のプログラムを運営したり、三井不が運営するシェアオフィスの一部に化粧直しや着替えに使える「チェンジルーム」という部屋を設置したりする成果が出ている。「働くママにとって便利なことは働くパパにも、ひいては世の中の人にとっても便利なはず」。今は健康面をサポートすることで、オフィスワーカーが安心して働けるような機能をビルに盛り込めないか、アイデアを練っているという。
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