井上芳雄 演技は「背中」で演じるのが一番難しい第1回

日経エンタテインメント!

ジェイ・ギャツビー役の井上芳雄(右)とデイジー・ブキャナン役の夢咲ねね(左) 写真提供/東宝演劇部

ギャツビーの強烈な孤独感は、ハムレットに似ています。パーティーで皆が楽しんでいるところにギャツビーが現れると、全然違う空気がぱっと流れます。ハムレットも、大勢が集まっているところに、1人で父のことを悼みながら入ってくる。誰とも交じりあうことのない孤独。ギャツビーとハムレットは、それを抱えています。

僕がそれを強く感じるのは、自分の中にも同じ孤独があるからかもしれません。主役という立場は、とても華やかな半面、すごく孤独でもあるからです。

絵に描いたような「ド主役」

そして今回のギャツビーは、まさに絵に描いたような「ド主役」でした。最近のミュージカルは、『レ・ミゼラブル』もそうですが、みんなが主役のような群像劇が多く、明確な主役がいたとしても、ダブルキャストやトリプルキャストが組まれます。たった1人の主役が作品を背負うケースはあまりなく、時代の流れに合わなくなってきたとも思えるところに、昔のトップスターがやるような大役を任されたのが、今回のギャツビーでした。

でも僕は、「オレが主役だ」というのが大好きで、やりたいというタイプではありません。もちろん主役はやりたいし、良い役もやりたいですが、自分を一番格好よく見せたいとか、輝いていたいとは、あまり思わない。だから、今回はド主役をいかに演じるか、真ん中に立つ者としての存在感をどれだけ出せるか。それが最大のチャレンジでした。

演技は「背中で演じるのが一番難しい」といわれます。ギャツビーは客席に背を向けて立つことも多いので、そこもチャレンジでした。舞台上では本当に何の小細工もできないから、背中には役者自身の存在感が問われるのです。

だから今回、自分が一番演じていたと思うのは、実は劇中ではなくて、最後のカーテンコールのときです。大階段の上から、スポットライトを浴びて1人ゆっくりと階段を下りてくるのですが、それはすごくエネルギーのいることでした。まさに宝塚のトップスターのような感じで、本来なら照れたいのですが、それはできない。だからカーテンコールでは精いっぱいクールに主役を演じていました。それが大作ミュージカルの主役を演じる喜びであり、同時に孤独な役割でもあるのだと感じつつ。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP社)。10月12日(木)に「井上芳雄 by MYSELF スペシャルライブ」を東京国際フォーラムにて開催。

「井上芳雄 エンタメ通信」の第2回は7月22日(土)。第3回以降は毎月、第1、第3土曜に掲載します。

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