郊外型カフェ「むさしの森珈琲」、少量多種類のメニューをワンプレートで提供する「和ごはんとカフェ chawan(ちゃわん)」など、2015年から展開している「脱ファミレス」専門店が好調なすかいらーく。そのすかいらーくが今度は、ハワイ料理に進出。2017年6月17日、「La Ohana(以下、ラ・オハナ)」1号店を、横浜・本牧にオープンした。
「ハワイは日本人にとって親しみがありながら、憧れの地。上質なハワイを体験できる空間を提供したい」(すかいらーくレストランツの松本純男社長)というが、正直、パンケーキブーム以降、ハワイアンカフェはちまたにあふれていて、食傷気味。しかもオープンした横浜・山手のロードサイドは、食に対する感度の高い住民が多く競合店も多いとあって、すかいらーくがいくつか業態転換をしてきた場所だ。
そんな場所に、なぜ今さら、ハワイ料理店をオープンさせたのか。いったい、これまでのハワイ料理店とどこが違うのか。オープン直前の内覧会に足を運んだ。
予想を裏切る「ハワイ感」の濃さと本気度
ラ・オハナがあるのは、首都高速湾岸線「本牧ふ頭 IC」から3分のところ。クルマなら来やすいが、みなとみらい線「元町・中華街駅」からバスで約15分、JR根岸線「山手駅」からタクシーで約5分という完全なロードサイドだ。
外観を見て驚いたのは、予想以上にハワイ感が濃いこと。入口付近にはヤシの木が植樹され、松明(たいまつ)風の炎が揺れているようなライトが設置されている。遠くからも目立つ高いポール看板にはパイナップルが掲げられ、外壁もハワイを感じさせる白の塗り壁風。エントランスもすかいらーくの既存業態にない高級感が感じられ、「かなり費用をかけて改装した」印象だ。
中に入ると、ハワイ風のユニフォームを着たスタッフが、ホテルのフロント風のカウンターで出迎え。メインホール右手にはホテルのカクテルバーのようなカウンターが広がり、リゾートホテルのラウンジ風にソファとテーブルが置かれている。どこからか水音が聞こえると思ったら、メインホールには水が流れる細長い水盤があり、リゾート感がますます高まる。
さらにテーブルに運ばれてきた看板料理「まるまる一羽! HULIHULI チキン La Ohana」を見て驚がく。昨今、鶏一羽を丸ごとグリルするロテサリーチキンの店は多いが、価格は一羽が2000~3000円。1280円という価格から「それなり」と予想していたが、びっくりするほどのボリュームなのだ。スタッフにテーブルで食べやすくカッティングしてもらって味わったが、皮はパリパリで中は軟らかく、パサつきがちな胸肉も肉汁たっぷり。味付けがスパイシーで肉自体にうまみが強いこともあって、添えられた3種のソースは最後まで出番がなかった。その他の料理も、子供も食べやすいファミレス味ではなく、パンチのきいた本格的な味。雰囲気・料理ともに「既存のハワイアンカフェとはどこか違う!」と感じた。
ハワイを体験させる?
すかいらーくマーケティング本部マネージングディレクターの崎田晴義氏によると、ラ・オハナのグループ全体におけるポジションはダイニングと専門店の中間。むさしの森珈琲や和ごはんとカフェ chawanとほぼ同じだという。実は同グループの中で、特に伸長著しいのがこのポジション。「今、食事だけでなく、店舗で過ごす楽しい時間や居心地の良い空間を重視する『コト・体験』消費のニーズが高まっている。2015年に1号店をオープンしたむさしの森珈琲は、『高原リゾートのような体験ができる』『軽井沢にいるみたい』という感想を多くいただいている。そのためカフェ市場では後発ながら想定以上の売り上げと顧客数をつかみ、現在、12まで店舗数を伸ばしている」(崎田氏)[注]
[注]店舗数は2017年7月上旬時点
つまり、「高原リゾートを体感できるカフェが予想以上に成功」「山の次は海」「海といえばハワイ」ということか。さらに、「日本にあるハワイアンカフェは、ローカルハワイアンをイメージしたカジュアルな雰囲気の店が多い。ハワイには年間約150万人以上の日本人が訪れるが、実はシニアもハワイ好きは多いので、若い人にもシニアにも好まれるような、ハワイの上質なリゾートホテルの空間をイメージした」(崎田氏)という。既存のハワイアンカフェと違う雰囲気を感じた理由は、その上質感にあるのだろう。
「総合ファミレスも安定成長しているが、専門に特化したブランドは成長スピードが速い。同じ場所でも、専門店ブランドだと遠くから食べに来る人が増え、商圏が大きく広がる」(すかいらーくマーケティング本部デピュティーマネージングディレクターの堤雅夫氏)。高級感のある空間づくりだけあって、ラ・オハナの店舗投資額は通常の約2倍。客単価も1人1300円前後と、ガストの2倍弱だ。だが、「他のハワイアン飲食業態と比較すると安め。グループ全体で約2800店舗を展開しているパワーを生かし、『これで1300円?』と驚かれるような料理を提供していきたい」(堤氏)。
メインターゲットは30~50代の女性で、シニア層にも狙いを定めている。朝7時から営業し、400円のコーヒーにトースト1枚とゆで卵が付く名古屋式モーニングを提供しつつ、24時まで営業して同グループ最多となる約30種類のアルコールメニューをそろえる。オールタイムのニーズに対応し、さまざまな使い方ができる店に育てていきたいという。
(ライター 桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2017年6月19日付の記事を再構成]