動物園で深刻な「跡取り」不足 規制で繁殖先細り
最近、動物園が出産ラッシュにわいています。6月には東京の上野動物園でパンダの赤ちゃんが生まれたほか、富山市ファミリーパークなどでニホンライチョウのひながふ化しました。ところが、動物園のプロたちの表情は必ずしも明るくありません。それは園にいる動物たちの「跡取り」を確保する見通しが厳しいためです。
日本動物園水族館協会の成島悦雄専務理事は「特に大型の動物で跡取りが不足している」と嘆いています。例えば人気のアフリカゾウ。2015年に国内に38頭いましたが、30年には7頭まで減ると同協会は推計しています。ニシゴリラは13頭が6頭に減り、バクやペンギンの一種は30年に国内からいなくなる可能性があります。
悲観的な推計なのは、動物園での繁殖が先細りするとみられるためです。ゾウやゴリラなど希少な動物は海外から個体を連れてきて繁殖しなければなりません。しかし環境保護の規制が強くなり、野生動物を海外から買ってくることが難しくなっているのです。
海外の動物園から個体を借りてくる手もありますが、簡単ではないようです。成島さんは「欧米の動物園は日本に個体をなかなか貸してくれない」と話しています。
日本の動物園は法律で細かな設置基準が定められておらず、施設の状態は動物園ごとにバラバラです。このことが厳格な基準をもつ欧米の動物園から不信をもたれる原因になっているようです。成城大学の打越綾子教授は「飼育環境を底上げする政策や予算がないと、海外との動物交換はなかなか進まない」と指摘しています。
上野動物園で生まれたパンダは2年後をメドに所有権を持つ中国に返還される見通しです。海外から動物を連れてくるのが難しい流れは今後も変わらないでしょう。
跡取り不足は動物園を訪れる側の意識も問うています。打越さんは「パンダやゾウなど人気動物ばかりに目を向ける発想を克服し、日本の里山に暮らす動物に思いをはせる施設も必要ではないか」と話しています。ゾウやゴリラが見られなくなると嘆くばかりでなく、タヌキやムササビなど古くから日本にいる生き物に目を向ける時かもしれません。
日本動物園水族館協会の成島悦雄専務理事「アジアの動物園との連携がカギに」
ゾウやゴリラなど大型の動物は将来も日本の動物園で見続けられるのでしょうか。日本動物園水族館協会の成島悦雄専務理事に聞きました。
――日本の動物園の跡取り問題について現状を教えてください。
「特に大型の動物で深刻な状況だ。協会が日本の動物園について2013年に推計したところ、10年時点で23頭いたニシゴリラは20年に11頭、30年に6頭まで減る。アフリカゾウは10年の46頭が20年に21頭、30年に7頭まで減ってしまう。ゴリラについては飼育方法に問題があった。群れでないと繁殖しにくいのに、日本の動物園は長らくオスとメスのペアで飼っていた。ゾウは繁殖に必要なオスをアフリカから輸入したいが、乱獲で頭数が減ったり、種の多様性を確保するための規制が強かったりして、輸入しづらくなった」
「繁殖には遺伝的な多様性を確保する必要があるため、ゾウやゴリラは海外から新しい血を入れなければならない。昔は野生動物を購入して確保していたが、ワシントン条約などによって取引が規制されるようになった。いまや動物園がお金を出しても動物を飼えない時代になった。特に大型のゾウやサイが大変だ」
――それではどうしたら動物園の跡取りを確保できるのでしょうか。
「動物園同士がそれぞれの動物園で繁殖した個体をお互いに融通してやっていくことだ。ただし日本の動物園の多くは自治体による運営で、住民の税金が入っている。税金で飼育している動物たちを融通し合うのは簡単ではない」
「海外の動物園からの融通にも難しい点がある。特に欧米の動物園関係者には『アジアの動物園は飼育方法が未熟だ』という見方が根強くあり、なかなか動物を融通してくれない。日本としては、アジアの動物園と連携を深めていくことが跡取りを確保する上でカギとなる」
――政府に望むことはありますか。
「日本には動物園について包括的に定めた法律が存在しない。動物の飼育基準も園ごとにバラバラで、欧米から動物を借りてこられない原因になっている可能性がある。このため私たちは動物園の設置基準などを定めた『動物園法』が必要だと考えている」
(高橋元気)
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