楽譜や住宅地図も出力 コンビニコピー機の隠れた実力
コンビニコピー機は、単にコピーをする機械ではない。ネットとつながっており、クラウドのサービスにアップロードした自分のファイルや写真データを印刷できる。この仕組みを応用して、企業や団体がアップロードしたコンテンツを、ユーザーが印刷物として入手する「コンテンツサービス」が広がっている。
「コンビニで写真印刷 スマホOK、証明写真も作れる」で紹介した住民票などをコンビニで出力できるサービスもその一つだ。そして、出力するモノを住民票からアイドル写真など有料のコンテンツに置き換えれば、もっと汎用的なコンテンツサービスになる。販売されているコンテンツの総数はなんと「50万以上」(シャープ広報)という。
楽譜や住宅地図などをコンビニで切り売り
コンビニのマルチコピー機は、コンテンツの切り売りに向いている――セブン-イレブンのマルチコピー機を手掛ける富士ゼロックスと、ファミリーマートやサークルK・サンクス、ローソンなどのマルチコピー機を手掛けるシャープはいずれもそう口にする。
例えば、楽譜や住宅地図だ。「1冊まるごとは必要ないけれど、その中の一部だけが欲しいというときに、コンビニで必要な分だけ購入して印刷できます」と富士ゼロックス中央営業事業部流通・サービス営業統括アーケードサービスグループグループ長の佐野広延さんは説明する。楽譜の場合は、「ぷりんと楽譜」というサービスでピアノやギター、ウクレレなどの楽器、合唱やオーケストラなどさまざまな楽器や演奏スタイルの楽譜を1曲108円から販売している。住宅地図はゼンリンが配信しており、業務などで必要な地域だけ購入できる(1枚300円)。
全国各地のマルチコピー機がネットワークでつながっているメリットを活用しているのが新聞だ。特定の業界新聞や出身地の地方新聞のように一般には入手しにくいものであっても、コンビニのコンテンツマーケットならば手軽に購入できる。
中でも人気なのが、公営ギャンブルの専門紙や予想情報。シャープのコピー機向けに配信しているe-SHINBUNのサイトには120以上が並ぶ。「競馬ならば全国どこでも競馬新聞を入手できますが、ボートレースなどになると、地方のレースの予想情報は現地でしか購入できないことが多いです。それがコンビニのマルチコピー機を使えば、全国の情報をその場で手に入れられるわけです」(佐野さん)。一刻も早く情報を入手したい勝負師たちに、コンビニコピー機の高度な機能が活用されているのだ。
このほか「お誕生日新聞」と呼ぶコンテンツも面白い。過去の新聞を印刷できるサービスで、誕生パーティーや卒業式などのイベントで生年月日の新聞をプレゼントしたいとき、コンビニに立ち寄るだけで印刷できてしまう。
欲しいものだけ買える、在庫を持たずに売れる
アニメや漫画など、いまや一大産業になった"二次元"コンテンツも、コンビニのマルチコピー機の売り上げをけん引するものの一つ。コンビニコピー機のサービスでしか手に入らない限定ブロマイドを印刷すれば、「とっておきの1枚」が手に入るというわけだ。
シャープビジネスソリューション事業本部 オフィスソリューション事業部 マーケット開発部 課長の中井康博さんはこう説明する。「アイドルやアニメ系のコンテンツはよく売れました。声優さんや韓流など、マニアックなものやディープなものも確実に売れる傾向があります。ファンの方は、コンテンツ購入という目的を持ってコンビニに来店しているようです」。時には、コンビニがアイドルグループやアニメ作品とコラボし、そのコンビニ限定の写真やイラストを配信することもあるそうだ。
コンビニコピー機が、さまざまな種類のコンテンツの販売、提供の場になっている理由の1つは、「ほしいものだけを切り出して購入できる」というユーザー側のメリットにある。1枚、1コンテンツ単位で印刷ができるから、本当に必要な部分だけにコストをかけて購入する「選択」が可能になる。
一方で、コンテンツを提供する側にとっても、コンビニコピー機のコンテンツマーケット化には大きなメリットがある。それは、在庫を持たなくても済むということだ。一般に新聞でもブロマイドでも、楽譜でも、印刷物を全国に流通させるにはそれ相応の在庫が必要になる。輸送して店頭に並べられても、再販商品ならば売れずに返品されて不良在庫になることも多い。ところが、コンビニコピー機のコンテンツマーケットならば、データをアップロードするだけでOKだ。
シャープの中井さんは「出版物は一定の量がないと発行できませんが、マルチコピー機での販売ならばモノとしての在庫は不要です。売れた分だけ著作権料が発生するといった契約とも親和性が高いです」という。富士ゼロックスの佐野さんも「在庫を抱えるリスクがないため、テストマーケティング的に活用されることも多い」と話す。
富士ゼロックス、シャープともに口をそろえるのは「これらのコンテンツサービスがコンビニのマルチコピー機の売り上げ増加をけん引している」ということ。利用者として「コンビニでこんなコンテンツが購入できるんだ!」というサービスの利便性を知っておくのはもちろん、ビジネス的な視点でもコンビニのマルチコピー機をインフラとしたビジネスは興味深い。
(ライター 岩元直久)
[日経トレンディネット 2017年6月13日付の記事を再構成]
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