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カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。8回目は他人から学ぶことについて、ゴーン氏が答えます。

他人から学ぶ

基本的に人は変わらない部分を持っている。そこに経験と学びを積み重ねていく

Q ゴーンさんは、1人の人間でありながら、様々な顔を持ち、場面ごとにそれを使い分けているように見えると多くの人が言っています。ロールモデルになる様々な人物に出会ったりしたことが関係するものでしょうか。1人の人が変わっていくことについて、どう考えていますか。
写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

基本的に人は変わらないものと考えています。

5歳の頃の私を知っている幼馴染みが海外に住んでいます。今もたまに会うのですが、興味深いことに、会うたびに「変わっていないね、ゴーン」と言われます。

私は5歳の頃には得ていなかった経験を、その後の人生でたくさん積んできました。当然ながら、置かれている状況も5歳の頃とは大きく変わりました。住んでいる国も変わりました。人生のなかで、以前の自分にはなかったり、変わったりする要素をたくさん積み重ねてきたはずです。それでも5歳の頃の自分を知っている人が言う言葉は「変わっていないね、ゴーン」なのです。

自分のなかには変わらない部分があるのです。それは、キャラクターとか価値観とか言われる部分です。その変わらない部分については、どうやっても変わらないのだから、自分自身のよりどころとしてきちんと守っていくことが大切なのだと思います。

一方で、自分のなかには変わっていく部分もあります。能力、理解力、そして知恵といった部分は、以前の自分と比べて変わっているはずです。経験を積んだり、学んだりすることで、変化が起きる部分もあるということです。

ロールモデルとなる人物を設定すべき。ただし、1人でなく複数

Q ゴーンさんがロールモデルにしているような人物はいますか。経営者でも、歴史上のヒーロー・ヒロインでも結構です。どうして、その人をロールモデルにしているのかも教えてください。

ロールモデルを持つのは大切なことです。ロールモデルを抱くことで、人は「どうして自分はこの人から感銘を受けるのだろうか」とか「どうすれば、この人みたいになれるのだろうか」と考えるようになります。ロールモデルがいることで、学ぶこともできるし、モチベーションを生じさせることもできる。「自分はより良い人間になろう」という気持ちが起きるからです。つまり、ロールモデルを持つことで、人は学習をするのです。

では、私にとってモデルになるような人物は誰か。実は、1人だけで私のモデルと言い切れるような人はいません。ある部分についてはこの人がモデルになり、別のある部分についてはこの人がモデルになるといった具合に、モデルにすべき点は複数の人に分散しています。頭の回転が速いという点でモデルになる人、また、勇気があるという点でモデルになる人、ほかにも共感する能力が高いという点、賢明であるという点、将来を見通す力が卓越しているという点、など様々です。

皆さんがイメージしやすいよう、1つの例を挙げてみたいと思います。私が感銘を受け、ロールモデルにしている人物の1人に、イギリスの元首相のトニー・ブレアがいます。何度もお目にかかりましたし、日産自動車のサンダーランド工場で出迎えたこともあります。ブレアは、地域社会の代表として、非常に鋭敏かつ明晰で、理解力がありました。ただし、ブレアのすべてが私にとってのロールモデルのすべてになるわけではありません。

もう1人、挙げてみます。共感する能力の持ち主という点では、マザー・テレサが私のロールモデルです。どうしてあそこまで共感する能力を持てるのだろうかと驚かされます。彼女がしてきたことを考えると、想像がつかないほどです。本当に信頼のできる人物だと思います。

その人物から学ぶため、そして、モチベーションを高めるため、人はロールモデルを持つべきだと思います。けれども、1人に絞り込むべきではありません。1人の人には必ず見習うべき側面もあれば、欠点と言える側面もあります。ロールモデルは複数形であるべきです。複数の人から、それぞれの卓越した側面を学べばよいのです。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載

※隔週火曜更新です。次回は7月25日(火)の予定です。

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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