豚骨ラーメンに紅ショウガ 白濁スープにアクセントを
紅ショウガ(2)
前回、関東と関西のショウガに違いがあることが明らかになった。今回は、列島の両端に目を転じる。
帯広にお住まいの方から「北海道全体として甘納豆入り赤飯が食べられているように書かれていますが、私が生まれ育った帯広のスーパーではほとんど見かけたことがありません…北海道の人なら甘納豆入りの赤飯を食べていて当然ということに、わたしのアイデンティティーがひどく傷つけられた」とのメールをいただいた。
甘納豆入り赤飯が北海道生まれで、いまでも広く食べられているとは書いたが、どこでも誰でも食べているとは書いていないんだけどなあ。地図の都道府県別データはご覧になりました? でも気を悪くしたらごめんなさいね。
ともかく甘納豆赤飯に紅ショウガは必要条件? そうなんですか?
戦後久留米で白濁とんこつラーメンが誕生したころ、中華ソバにつきもののメンマが手に入らないので地元の干し竹の子をシナチクと称して使っていたそうです。そのシナチクは水で戻して油で炒められた後、なぜか食紅で真っ赤に染められていました。色気のない白濁とんこつラーメンに「青いネギ」「黒い板海苔」そして「赤いシナチク」で食欲をそそりたかったんでしょうね。
その後、その干し竹の子も価格が上がり、とんこつスープと相性のいい紅ショウガが取って代わった、ということらしいです。
インスタントのとんこつ味カップラーメンにも、紅ショウガはデフォルトで入ってますね。以前はラーメンに初めからトッピングされていましたが、最近は「スープの味が変わるから」と、別容器で提供する店が増えました(久留米やきとり学会 豆津橋渡さん)
久留米でとんこつラーメンが生まれたのは昭和12(1937)年。ただしこの時点では白濁していない。白濁スープが誕生するのは戦後のことである。豆津橋さんのメールはそのころの久留米ラーメンの事情をほうふつさせて貴重。
最近は紅ショウガを別容器で出す店が増えたというのは私にとっては朗報である。そうこなくっちゃ。
でも、最近の沖縄そばの通好みの一品には、紅ショウガではなくショウガの千切り(針ショウガ)がのっていますし、出し汁も薄味系が主張しはじめています。分厚いルージュよりも素肌美人系が好まれる昨今、沖縄そばも例外ではなかったのでした(沖縄チャンポンさん)
沖縄でも久留米と似た現象が起きている模様。時代の流れ…というほどでもないか。
駆け足で。
福井県にお住まいのたまのすけさんから「ラーメン主体のこじんまりした中華屋さんの焼きめしには紅ショウガがのっていて、本格中華料理屋のコースなんかの最後に出てくる焼きめしにはのっていないような気がする」とのメール。その通りであろう。1人1万円ほどのコースで、しめに紅ショウガがニワトリのとさかみたいにのっかったチャーハンが登場したら膝かっくんである。
日野みどりさんから「考えてみると紅ショウガのみじん切りを売ってるのは関西だけ?」とのご疑問。関西ではたこ焼きその他鉄板系コナモンでみじん切り紅ショウガの需要は多い。私も大阪以外でみじん切り紅ショウガが市販されているのを見たことがない。
デスク反論 見ました。買いました! 先週の大量紅ショウガ3袋のうちひと袋はみじん切りでした。もっとも、アメ横以外では見たことはありませんが。
ミルフォードさんから「焼きそばおよび焼きそばパンと紅ショウガのカップリング具合に地域差があるのか」とのご疑問。焼きそばに紅ショウガがついてくる以上に、焼きそばパンに紅ショウガが入っているような気がするとか。なるほど、そうかもしんねえ。
私は思うのだが、焼きそばをはさんだからといって、パンと紅ショウガを合わせるというのはいかがなものであろうか。美味いからいいじゃないかって? すびばせんね(桂枝雀)。
広島県のうえぽんさんからは「関西風お好み焼きには紅ショウガが混ぜ込んであるが、広島風お好み焼きにはついていない」とのメール。そうでしたっけ? 広島のお好み焼きは紅ショウガと仲が悪い?
亡命名古屋人さんからのメールには「名古屋にいたころにお袋はザーサイみたいな平たい紅ショウガを買っていた記憶がある。食卓に出すときに改めて細切りにしていた。あれは天ぷら用だったのか」と。かつて名古屋でも紅ショウガの天ぷらがあったのに絶滅してしまったということなら新発見である。
三遊亭円丈著『名古屋人の真実』を読んでいたら、名古屋でも冷たいコーヒーを「れいこ」と言うと書いてあった。「冷こ」「冷こー」は関西だけかと思っていたので驚いたことであった。
さあ今回、紅ショウガを巡るいくつかのテーマ、疑問が浮上した。個人的には焼きそばパンにはどうしても紅ショウガをはさまないといかんのか。福神漬けではだめなのか。横手の焼きそばパンも紅ショウガの軍門に降っているのか。というようなことに興味を抱いているのである。
(特任編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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