まず、挨拶(あいさつ)。得意先に行き「今度、配属になった平野です」と言うと、「なんであんたアサヒなんかに入ったの?」。するとすかさずこう答えた。「はい。社長になるためにアサヒに入りました!」。もちろん出任せだった。

目標は社長? 見どころのある新人

「早大の日本拳法部の主将をやっていたため忙しく一番最初に内定をくれた会社にさっさと決めてしまいました」なんて説明するのは面倒だ。だから「社長になるために」と言ったまでだが、聞く方はそうはとらない。もともと相手は体を張って店舗を切り盛りしている一国一城の主だ。「今度の新人、なかなか見どころがある」となった。

アサヒビールの「スーパードライ」は発売30年を迎えた

もちろんはったりが通用するのは一度きり。勝負は二度目だ。「今日は天気いいですねえ。最近、景気はどうですか」。そんなぬるい営業なら追い返される。平野は徹底的に相手の現状のデータを頭に入れた。褒めるなら本当に良いところを具体的な事例を示して褒めた。「最近、お店、雰囲気いいですねえ」といった感覚的な表現なら相手も「なんだ、おべんちゃらか」と白けてしまうが、事実をきちんと褒めてもらえれば「そうなんだよ」と乗ってくる。

ズバッと痛い提案も

だが、平野の真骨頂はむしろ相手の痛いところをつくときだ。「今期の売上高、前期よりも12%も下がりましたね」「利益率が2ポイントダウンですよ」。ズバッといった。そのうえで「品ぞろえをもっと女性向けに変えてみませんか。例えばこれとこれを入れ替えて」と具体的な提案をもっていった。

こうなれば「人気のないアサヒビール」でも人気がでる。会社の売り上げは伸び悩み、状況はさえなかったが、平野だけは別。常にその年度の目標値を上まわり続けた。こうなると誰も平野をたたけない。

打たれる前に先手を打つ。これも、打たれぬ杭になるコツだ。1997年、中国室長だった時のこと。平野は当時、社長だった瀬戸雄三から青島ビールとの合弁交渉役を任じられ、最前線にいた。一部の役員の間には「あの青島ビールとうちが渡り合えるのか」「リスクが大きいんじゃないか」と心配する声もあった。

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中国ビジネスも「たたく暇」なし