人類史を覆す? 30万年前の化石はホモ・サピエンスか

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/6/26

さらに、ジェベル・イルード遺跡の年代は、最近明らかになったホモ・ナレディ(南アフリカで発見された初期人類の一つで、奇妙な解剖学的特徴をもつ)の年代と重なっている。今回の発見により、同じ時期のアフリカに、大きく異なる人類が少なくとも2種生息していたことの証拠が得られた。(参考記事:「謎の人類ホモ・ナレディ 現生人類と同時期に生きたか」)

モザイク的な進化

ジェベル・イルードの化石が現代的な顔と原始的な頭蓋をもつことから、ユブラン氏らは、現生人類らしい特徴は一度に進化してきたわけではなかったのだろうと提案する。ネアンデルタール人でも見られたように、現生人類は特徴ごとにモザイク的に進化してきたのかもしれない。

「現生人類は、新しい部品が完備した状態でショールームに飾られる自動車のニューモデルとは違うのです」とウッド氏。「現生人類の形態や行動のさまざまな部分は、徐々に現れてきたのでしょう」

発掘された複数の化石をスキャンし、かつてこの地に住んでいた初期人類の頭蓋を合成復元した。(PHOTOGRAPH BY PHILIPP GUNZ, MPI EVA LEIPZIG)

ユブラン氏の研究チームは、今回の発見により、初期人類がアフリカ全域に広く分散していたこともわかると言う。彼らは、過酷な砂漠が周期的に住み心地の良い草原に変わる「グリーン・サハラ」の時期にアフリカ北部に広がったのかもしれない。ただし、ユブラン氏と共同執筆者のシャノン・マクフェロン氏は、現生人類がアフリカ大陸のどこで進化したのか、正確なところはまだわからないと強調する。

さらに、今回の発見からは興味深いジレンマも生じる。古人類学者は、ジェベル・イルード遺跡の化石人類をホモ・サピエンスの一部として扱うべきかどうかだ。

ホモ・サピエンスなのか?

米ハーバード大学とオーストラリアのグリフィス大学の古人類学者であるターニャ・スミス氏は、今回の研究には関与していないが、「ジェベル・イルードでの発見は、何をもって『現生人類』とするか、線引きをめぐる論争に関わってきます」と言う。

出土した下顎骨をデータ上で加工し、歪んで断片化した化石標本を元の形に復元した。(PHOTOGRAPH BY JEAN-JACQUES HUBLIN, LEIPZIG)

米ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス氏は、今回の論文の著者らが、ジェベル・イルードの化石がホモ・サピエンスに属していると主張することに疑問を抱いている。「彼らの論文は行き過ぎだと思います。彼らは、私が一度も見たことのない『初期現生人類』というカテゴリーを作って、ホモ・サピエンスの概念を再定義しています」

ホークス氏は、研究チームの慎重な再発掘を賞賛する一方で、論文の重要性を誇張してはならないと苦言を呈する。「頭蓋が古い特徴をもち、顔が現生人類に似ていることは、これまでも多くの科学者が指摘しています。ユブラン氏らは、年代以外の点では新しい発見をしていないのです」

これに対してウッド氏は、ユブラン氏が「初期現生人類」という表現を使ったことには意味があり、詳細はまだわからないが、ジェベル・イルードの化石が人類史の中で独自の場所を占めていることは確実だと考えている。「化石証拠は、30万年前に現生人類と驚くほどよく似た集団がいたことを示しています。これをどう理解するかはあなた次第です」とウッド氏は語る。

「ホモ・サピエンスの定義を拡大してジェベル・イルードのヒト化石を含むようにしてもよいし、現生人類への途上にある生物として見てもよいのです」

(文 Michael Greshko、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年6月10日付]

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