損しないのはどっち? クイズで挑戦、賢い買い物術
ムダな買い物をしてしまうのは、意志の弱さが原因ではありません。クイズに答えて、買い物の心理を知り、欲求とうまく付き合いましょう。
【1時間目 行動経済学】
「損を避けたい」と思う余りに、気付かぬ損をしていることも!
「人間は無意識に『損したくない』と考える生き物。しかし、そうした"感情"に流されて、合理的とはいえない判断をしてしまい、逆に損をするケースは少なくありません」と、行動経済学に詳しい大江英樹さん。
通販の「返品無料」、値札に付いた値引き表示……。一見お得そうだが、「余計な買い物をさせるための誘導ではないか、冷静に判断を。セールではクレジットカードを使わないなど、ムダ遣いを防ぐためのルールを決めることも大切です」。
特に注意したいのは金融商品。高金利に見えて、手数料が高いものもある。「なぜお得なのか考えて、仕組みが理解できないものには手を出さないのが賢明です」
■Q1 あなたは映画館で映画を見ている。30分たったが、期待外れだ。そんなとき、どうする?
A.途中で席を立つ
B.もったいないので最後まで見る
正解:A 途中で席を立つほうが、ムダが少ない
「お金を払ったのだからもったいない」とBを選ぶ人も多い。この心理を「サンクコスト(=戻ってこないお金)効果」という。しかし実際は、AもBも損した金額は同じ。時間を有意義に使える分、Aのほうが合理的だ。
■Q2 「返品自由」と書かれた通販サイト。気になる商品がいくつかある。どうする?
A.注文して、気に入らなければ返品する
B.どうしても欲しいのでなければ、注文しない
正解:B 一度手にしたものは、手放しにくくなる
返品可能といわれると、購入へのハードルが低くなる。しかし、一度手に入れると今度は手放すのが惜しくなるのが人間。この心理を「保有効果」という。「返品には手間もかかり、実際にはハードルが高い作業です」(大江さん)
■Q3 住宅購入の頭金のため定期預金に200万円ためた。そんなとき、車を200万円で買い替えることに。どちらを選ぶ?
A.定期預金は残し、車はローンを組んで買う
B.定期預金を崩して車を買う
正解:B ローンを組むほうが金利負担が大きい
メガバンクの自動車ローンの金利は変動金利で年3~5%程度。一方、定期預金の金利は年0.01%。「ためたお金を崩すのがもったいないという理由でローンを組むと、0.01%の利息をもらうために3~5%の利息を支払うという損な結果に」
■Q4 買い物に行き、見た目も質感もそっくりな白いシャツを見つけた。どっちを買う人が多い?
A.値札の3万円が1万円に修正されたシャツ
B.最初から1万円で売られているシャツ
正解:A 値段よりも、値下げに注目してしまう
人は最初に示された数字に影響を受ける。これを「アンカリング(=いかりを下ろす)効果」という。Aは、最初に書かれた3万円が印象に残り、1万円を安いと感じるが、「本当に大切なのは、価格に見合う価値があるかどうか」。
■Q5 3000円の買い物をしたら、レジで「あと1000円買えばポイントが2倍になる」と言われた。どうする?
A.あと1000円買う
B.追加の買い物はしない
正解:B おまけにつられて実は損している!
「"おまけ"であるポイントのために、余計なお金を払うのは本末転倒」。この現象を「選好の逆転」という。ポイント還元率は多くの店で1%。このケースでは、1000円余計に払っても、上乗せでもらえるポイントは50円分しかなく、損してしまう。
■Q6 あなたは投資信託の購入を検討中。どちらを選ぶ?
A.毎月いくらかのお金を「分配金」としてもらえる投信
B.分配金のない投信
正解:B 目先のお得感に惑わされないで
投信の分配金は運用の利益や元本のなかから支払われる。つまり、自分の資産の一部を受け取っているだけ。「お得と感じるのは錯覚です。分配金を出さず、運用に回す投信のほうが合理的」
【2時間目 脳の仕組み】
脳のクセを知って、対策を立てれば、ムダ遣いは「ある程度」防げます
買わないはずのウインドウショッピングで、つい衝動買いをして後悔……。「それは意志が弱いのではなく、私たちの思考や判断が"脳のクセ"に左右されているから」と、東京大学薬学部教授の池谷裕二さん。
例えば、脳は将来の自分の感情を予測できないというクセがある。買い物の前には、衝動買いする自分を想像できず、「冷静に判断できる」と思っている。しかし、実際は欲しいものを見ると興奮し、買ってしまう。このクセを知っておけば、「むやみにウインドウショッピングに行かない」などの対策を立てられる。「脳のクセ自体を変えることはできませんが、クセを知ることで、損を招く行動をある程度避けられます」
■Q7 次の2つのうち、よりお得なのはどっち?
A.200円のキャベツが2割引きになっている
B.200万円の車が1万円引きになっている
正解:B 割引率より実際の金額を見るべき
Aの割引額は40円、Bは1万円。「Bのほうが明らかに得。割引率ではなく、実際の割引金額で見る習慣をつければ、小さな節約ではなく、大きな節約をしようという発想になります」(池谷さん)
■Q8 店ですてきなバッグを見つけた。買わずに帰ったが、気になる。もう一度見に行くと、どちらの結果になりがち?
A.やっぱり我慢しよう!
B.やっぱり買ってしまおう!
正解:B 脳は将来の感情を予測できない
「もう一度見に行っても、冷静な判断ができる」と考える人は多い。だが、脳は将来の自分の感情を予測できない(感情移入ギャップ)。「実際は欲しいモノを見ると興奮し、買いたくなるもの。見に行かないのが一番」
■Q9 あなたは見知らぬ土地を旅行中。1日のうちに観光と買い物を済ませたい。どちらを先にするべき?
A.買い物を午前中、観光を午後
B.観光を午前中、買い物を午後
正解:A 脳は疲れると複雑な判断ができない
自制心や忍耐力は筋力に似ており、疲れると十分に働かなくなる(自我消耗)。見知らぬ土地にいること自体、脳と体が消耗する行為。さらに観光で疲れた後に買い物をすると、判断力が鈍って余計なものを買いがちなので注意。
■Q10 3つのスマホプランがある。どのプランを選ぶ人が多い?
A.スマホ単体 … 5600円
B.タブレット単体 … 1万2000円
C.スマホとタブレットのセット … 1万2000円
正解:C 選択肢BはCを買わせるための「おとり」
実際に行われた同様の調査では、84%の人がCを選んだ。売り手は、お得度の低いBをあえて提案することで、Cのお得感を際立たせる。これを「おとり効果」という。売り手に誘導されていないか、慎重に判断を。
■Q11 友人とランチを食べに行く予定。どちらの店のほうが満足感が高まる?
A.自宅の近所のイタリアン
B.電車と車で1時間かけていくイタリアン
正解:B 手間暇が多いほど「いいもの」と思い込む
脳は自分の取った行動に合わせて、心理を書き換える(認知的不協和)。つまり、「遠くまで行ったのだからおいしいはず」と、自分の努力を正当化する。同様に、無料でもらったモノより、自分で買ったモノのほうが愛着が湧き、大事に使う。
■Q12 2種類の薬がある。違いは価格と、副作用の確率。どちらの場合が、2万円の薬を買う人が多い?
A.1万円の薬は1000回に15回副作用が出るが、2万円の薬は1000回に10回しか出ない
B.1万円の薬は1000回に5回副作用が出るが、2万円の薬は副作用が出ない
正解:B 脳は「確実性」を求めたがる
AもBも、「副作用が5回減る」という点では同じ。だが、脳は確実性を求め、少しでも失敗する恐れがあると行動をためらう(ゼロリスクバイアス)。例えば、投資でも「元本保証」にこだわる人は多いが、リスクを取ったほうがお金は増える可能性がある。
この人たちに聞きました
経済コラムニスト。大手証券会社を定年退職後、オフィス・リベルタスを設立。行動経済学、資産運用、企業年金などをテーマに、執筆やセミナーを行う。近著は『定年男子 定年女子』(共著、日経BP社)。
東京大学薬学部教授、脳研究者。海馬や大脳皮質の解明に取り組み、脳の最先端の知見を分かりやすく解説。『ココロの盲点 完全版』(講談社)『脳はなにげに不公平』(朝日新聞出版社)ほか、著書多数。
[日経ウーマン 2017年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。