日経Gooday

高齢者、外耳道が狭い人、補聴器使用者、耳栓使用者などには耳垢塞栓ができやすいことが知られています。同学会は、「塞栓を予防する方法はないが、耳垢が非常に多い人、耳垢塞栓を繰り返している人、補聴器などを使用している人は、6~12カ月ごとに専門医を受診し、予防的な耳掃除をしてもらうとよいのではないか」としています。

また、耳の清潔を保つために、「イヤー・シリンジ」と呼ばれる大形のスポイトのような道具[注2]の使用も、選択肢の一つとして推奨しています。イヤー・シリンジは日本では一般的ではありませんが、西欧では広く市販されており、家庭で使用できます。耳鼻咽喉科以外の医師が同様の器具を用いて洗浄する場合もあります。

耳の病気を防ぐためには、補聴器などのイヤホン部分を清潔に保つことも重要です。

なお、以前、「オトサン」(イタリア語でイヤーキャンドルのこと)という耳掃除のための器具が流行しました。オトサンは耳の穴に細長い中空のろうそくを立て、火をつけて燃やすリラクゼーション法で、耳垢が吸い出されるといわれていましたが、安全性と有効性に関する検討は行われていません。「イヤーキャンドルによって耳から出てくるのは、キャンドルから落ちた蝋(ろう)であって、耳垢ではない」と報告した研究もあります。また、やけどをはじめ、耳に蝋が入るといった事故が報告されています[注3]

乾いた耳垢なら、なおさら掃除は不要

米耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が提示している以上の情報に加えて、興味深い情報をいくつか追加します。

一つ目は、同学会のアドバイスが日本人にも当てはまるか、という点です。西欧人ではおよそ9割が湿性耳垢ですが、日本人は7~8割が乾いた耳垢(乾性耳垢)です。乾性耳垢のほうが自然排出されやすいため、主に湿性耳垢の人々を対象とするガイドラインが耳掃除は原則不要、というのですから、乾性耳垢の人はいうまでもありません。

二つ目として、耳垢塞栓と認知症との関係を示した、国立長寿医療研究センターの杉浦彩子氏らの研究を紹介します。日本人の高齢者で認知症が疑われ、耳垢塞栓が見つかった患者の耳から塞栓を除去したところ、聴力のみならず認知機能も改善しました[注4]

難聴は認知機能低下の危険因子であることを示した研究もあることから[注5]、高齢者に聴力の低下が疑われたら早めに専門医を受診し、耳垢塞栓の有無を確認してもらったほうがよさそうです。

[注2] 室温の水や生理食塩水などを勢いよく出し入れして耳の中を洗浄する器具。

[注3] オトサンは1990年代に日本でも流行しましたが、日本国内でも事故の報告が相次ぎ、1997年に国民生活センターが注意喚起を行っています。

[注4] Sugiura S, et al. Geriatr Gerontol Int. 2014 Apr;14 Suppl 2:56-61. doi: 10.1111/ggi.12251.

[注5] Lin FR, et al. JAMA. 2016; 316(8):819-820. doi: 10.1001/jama.2016.7916.

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

[日経Gooday 2017年5月29日付記事を再構成]

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