2017/6/14

介護に備える

「難聴を引き起こすすべてのメカニズムはまだ解明されていません。しかし、難聴の危険因子としては加齢のほかに遺伝的要因や糖尿病、喫煙など様々なリスクが考えられています。中でも難聴を起こす最も大きな原因と考えられているのが、騒音です」と内田さん。

若い頃に大きな音を長期間にわたって聞いていると、年を取ってから難聴になるリスクは高くなるという。「10代や20代の頃に、大きな音量で音楽などを日常的に聞いていると、60歳を過ぎてから加齢性難聴になるリスクは非常に高くなります。また、大音量に長時間さらされると40歳くらいで難聴が起こることもあります。怖いのは、聴力機能は一度壊れたら元には戻らないということです」と内田さんは警鐘を鳴らす。

大音量から耳を守るためには、できるだけ大音量に耳をさらさないことが大事だ。コンサートなども1時間に5分くらい休憩を入れるといいと内田さんは言う。「工事現場で仕事をしている人などで、その場から抜けられない場合は、耳栓をして耳を休めるようにしてもいいでしょう。またライブハウスなどではスピーカーの近く、音の反響がある壁の近くは避けることも重要です」と内田さんは話した。

また、高齢者の場合、難聴かと思ったら、耳あかがたまっていたというケースもあるという。「通常、耳は自浄作用があるので、耳あかは外側へ押し出されるのですが、高齢になると自浄作用が低下して、耳の奥に耳あかがたまってしまうことがあります」と内田さん。健康診断では、聴力の検査はしても耳の中まで調べることはない。耳の聞こえが悪くなったなと思ったら、年だから仕方がないと思わずに、一度、耳鼻咽喉科でしっかり中まで調べてもらうことも大切だ。

補聴器を使うことで認知症は改善されるか?

難聴は治療をしても元の聴力に戻すことはできないが、補聴器を使うなどして聴力を補うことは可能である。では、補聴器で聴力が回復すれば、認知症も改善されるのだろうか?

「補聴器を使って聴力を補えば認知機能が改善するのかという疑問には、まだ答えが出ていません。また、認知症の人は補聴器の管理や操作をするのが難しいため、使用自体が困難な場合もあります」と内田さん。ただし、家族のサポートで補聴器を使うことにより、コミュニケーションが取りやすくなり、認知症に伴う周辺症状が改善される場合もあるという。

高齢者の難聴、そして難聴と認知症の関連はまだ分からないことも多いが、できるだけ若いうちから、騒音に耳をさらさないようにして、聴力の低下を予防することが大切といえそうだ。また、高齢者の難聴の中には、耳あかなど治療で治る場合もある。内田さんは「耳に違和感を覚えたら、一度は耳鼻咽喉科を受診してください」と話す。

内田育恵さん
 愛知医科大学耳鼻咽喉科特任准教授。1990年大阪医科大学卒業。米国留学、名古屋大学医学部耳鼻咽喉科助手、非常勤講師等を経て、2010年国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科医長。2015年より現職。国立長寿医療研究センター客員研究員。2012年、「全国高齢難聴者数推計と10年後の年齢別難聴発症率―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)より」にて日本老年医学会優秀論文賞受賞。

(ライター 伊藤左知子)