腰痛・肩こりは生活習慣病 痛み取る「30分ルール」
腰痛や肩こりなどの「整形外科的な痛み」はなぜ慢性化しやすいのか。体の痛みを自分で治すにはどうすればいいのか。竹谷内医院(東京都中央区)院長で整形外科医・カイロプラクターの竹谷内康修(たけやち・やすのぶ)さんに聞いた。
腰痛・肩こりの2大要因は「姿勢」と「ストレス」
――腰痛や肩こりなど、整形外科で診てもらうタイプの骨や筋肉の痛みは、すっきりと治りきらず、すぐぶり返すことが多いように思います。こうした「整形外科的な痛み」は、なぜぶり返しやすいのでしょうか。
腰痛や肩こりが原因で、整形外科で薬などの対症療法を受けたことがある方は多いと思います。でも、「一度で痛みやこりがすっきりと治って、それ以来再発していない」という方は少ないことでしょう。
一度はすっきりしても、1、2カ月、ひどいときには1週間もすると、また痛みやこりが再発したという方もいます。腰痛や肩こりなど、整形外科的な体の痛みはそこが問題で、ご指摘のように「慢性化しやすく治りにくい」という特徴があるのです。
では、なぜ整形外科的な痛みは慢性化しやすいのかというと、答えはシンプルです。肩こりや腰痛の原因のほとんどが、生活習慣に基づくものだからです。いわば、一種の生活習慣病といってよいでしょう。
生活習慣病というと、高血圧や糖尿病をすぐに思い浮かべる方が多いかと思います。そうした病気が、日々の食生活や運動といった習慣に深く関わっているのと同様に、腰痛や肩こりもまた、日常生活の中での体の使い方や社会環境などに深く関係しているのです。日々の生活の中で、知らず知らずのうちに傷めていくものですから、治りにくかったり再発しやすかったりするのです。
――腰痛などが「生活習慣病」だとは、考えたこともありませんでした。具体的にはどんな生活習慣が関係しているのですか。
特に重要な2つの要素は、「姿勢」と「ストレス」です。
姿勢が原因であることは理解しやすいと思います。人間は、体の一番上に、約5キロの重さを持つ「頭」を乗せています。ボウリングの球と同じような重さのものが上に乗っているのですから、それを支える筋肉に大きな負担がかかります。
それでも、まっすぐな「良い姿勢」でいれば、その重さが真下にかかるため、負担はそれほどではないのですが、前かがみや顎を突き出すなどの不自然な姿勢が長く続くと、筋肉には余計な負担がかかってしまい、こりや痛みの原因になってしまうのです。
もう1つの原因であるストレスについては、腰痛と関係があることが研究で確かめられています。直接の理由はまだ詳しく解明されていないのですが、それでも長時間の仕事や複雑な人間関係がこりや痛みを招くことは、容易に想像できます。
デスクワークは「重労働」、ストレスで筋肉が緊張して疲労
今や、オフィスでは常にパソコンに向かっているのが当たり前の時代になりました。昔に比べると、お茶くみやコピー取りといった「楽」な仕事の比重が減り、誰もが具体的な成果を求められています。一日中、頭を使い、神経をすり減らしているのが多くのオフィスワーカーの姿ではないでしょうか。
このように常時緊張を強いられると、自律神経のうちの交感神経が優位になってきます。交感神経は血圧や呼吸数を上げ、筋肉を緊張させる作用があります。こうして、神経への負荷が筋肉の緊張を招き、持続的な筋肉の緊張は筋疲労を起こしていきます。そして、筋疲労があるレベルを超えたところで、「痛み」を発するのです。
また、筋疲労が続けば、筋肉がバランスよく体を支えられなくなり、姿勢を悪くしてしまいます。そうすると、また新たな痛みの原因を起こすという悪循環を招いてしまうのです。
――筋肉の疲労により痛みが出るとは、いわゆる「筋肉痛」ということでしょうか。座ったままなのに筋肉痛になるなんて、意外な感じがします。
そうですね。座ったままなのに筋肉痛になるというと、不思議に聞こえるかもしれません。昔は、厳しい農作業や工場での肉体労働によって、筋肉や関節を傷めることがよくありました。しかし、産業構造の転換、農業・工業の機械化の進展、ライフスタイルの変化によって、痛みの原因も変わってきたのです。
デスクワークは、決して楽な仕事ではありません。脳への負荷は、肉体労働より一般に大きいと考えられます。体への負担についても、動きが少ないので楽に見えるかもしれませんが、重労働には違いないのです。
昔とは痛みの原因が変わっている以上、昔ながらの方法では肩こりや腰痛は治りません。時代の変化につれて、対処法も違ってこなければならないのです。
姿勢の悪さを自覚することが、姿勢改善の第一歩
――姿勢とストレスが、現代においては腰痛などを慢性化させる2大要因だということはよく分かりました。しかし、例えば一日中パソコンの前に座ったきりで緊張を強いられる仕事をしている場合、悪い姿勢もストレスも仕事から来ていますから、簡単には改められません。
確かに、仕事がストレスになっているからといって、すぐに仕事を変えることはできないでしょう。でも、姿勢なら、本当は自分でいつでも変えられるはずです。ポイントは、自分の姿勢が悪いと自覚しているかどうかです。
私のところに来るような患者さんは、姿勢が悪い方が多いのですが、意外とその自覚がありません。
私が「まっすぐに立ってください」というと、ご本人はまっすぐに立っているつもりでも、かなり前かがみになっていることが多いのです。そうした方には、よくタブレット端末で写真を撮って、確認してもらうようにしています。
この方法はなかなか有効です。正面からの立ち姿なら鏡で見ることができますが、横からはうまく見られません。もし、あなたが腰痛や肩こりで悩んでいるならば、家族や知人にお願いして、真横からスマートフォンやデジタルカメラで撮ってもらって見てください。
――姿勢の悪さを自覚することが、姿勢を改める第一歩なのですね。自分の姿勢が良いのか悪いのかは、どこを見れば分かりますか。
「理想的な立ち姿勢」というのは、真横から見て、耳、肩、股関節、ひざ関節の中心が一直線になる姿勢です。この姿勢ならば、頭の重さを体全体の筋肉でバランスよく支えることができます。
しかし、前かがみになっていると、首や肩の筋肉に必要以上に力が入ってしまい、首の痛みや肩こりの原因になります。さらに、体全体のバランスをとるために腰の筋肉に力がかかり、腰の痛みにもつながります。傾いた建物を支えようとすると、土台に無理がかかるのと同じ理屈です。
「理想的な座り姿勢」も、同じ理屈で考えます。上半身がまっすぐ立っていて、しかも腰がいすの背面に密着しているのが良い座り姿勢です。
典型的な「悪い座り姿勢」は、前かがみになって首に力がかかってしまう姿勢と、ふんぞり返って腰が丸まる姿勢です。
このように、立ち姿勢であれ座り姿勢であれ、良い姿勢と悪い姿勢があるのは確かです。しかし、たとえ良い姿勢であっても、長時間同じ姿勢を続けるのはよくありません。筋肉が固まってしまうからです。
「30分ルール」で姿勢をこまめに変える
――たとえ良い姿勢であっても、長時間続けるのはよくないとは驚きです。では、腰痛などの慢性痛がある場合、どんな姿勢をすればよいのですか?
私が患者さんによく指導するのは、「30分ルール」です。これは、30分に1回休憩を取る習慣をつけること。例えば、9時から12時までぶっ続けで座ったまま仕事をするのではなく、30分に1回、計画的に休憩を取り、意識して姿勢を変えるのです。
座り続けのオフィスワーカーならば、30分に1回、立ち上がるのがいいでしょう。最低限、一瞬でもいいから姿勢を変えることがポイントです。それによって、股関節を動かす働きを持つ腸腰筋(ちょうようきん)を伸ばすことができます。
腸腰筋は、腰の不調に大きく関係する筋肉で、現代人の日常生活では固まりやすいのです。腰痛患者さんの中には、座った姿勢からすぐに立ち上がれない人がいますが、これは腸腰筋が固くなっていて腰が伸びないために起こる症状です。
そんな人でも、こまめに腰を伸ばすことで、腰の筋肉をほぐすことができます。腰の痛みの予防にも対策にも、ときどき姿勢を変えて立ち上がることは欠かせません。
――なるほど、「30分に1回、立ち上がる」のなら、すぐにでも実践できそうです。周りには驚かれるかもしれませんが(笑)。
可能ならば、ただ立ち上がるだけでなく、少し歩くのがお勧めです。トイレに行ったり、お茶やコーヒーをいれたりするのでもいいでしょう。
休憩のコツは、1回に長時間の休みを取るのではなく、こまめに取ること。「筋肉が固くならないうちに、ほぐす」という動作を繰り返すわけです。だからこそ、30分ルールが効果的なのです。また、1日に1回だけ昼休みを1時間取るよりも、昼休みを45分にして午後に1回15分の休みを入れる方が、筋肉をほぐす効果が高まります。
もし、これをお読みのあなたが、会社の幹部や役職付きの立場ならば、社員にこうした休憩時間を積極的に取るように指導することをお勧めします。「休んでばかりいたら、仕事の効率が悪くなるのでは?」と思うかもしれませんが、長時間ずっと座らせているよりも、ときどき休んでもらう方が、長い目で見ればむしろ効率的なのです。
――こまめに姿勢を変えさせる仕組みを職場に導入することで、社員の健康づくりと生産性の向上を一挙に達成できるわけですね。
はい。会社によっては、机をジグザグに配置したり、フロアの入り口を1カ所にして、なるべく社員を歩かせる工夫をしているところもあります。
また、座って仕事をするばかりではなく、最近話題になっている「立ちデスク」も一つのアイデアです。大がかりなことができないというのならば、立ったままミーティングができるコーナーを作るだけでもいいでしょう。
一方、立ち仕事がメインである警備員や接客業などの方は、逆に座ることが休憩になります。もちろん、じっと立っていることが多いのならば、歩きまわることもいいでしょう。
要するに、変化をつけて、通常とは逆の姿勢を取ることが大切なのです。
加齢に伴う体の変化を自覚し、普段からのケアを
――腰痛などの慢性痛は、実際のところ、どこまで自分で治せるものなのでしょうか。
私は、整形外科の医師であると同時に、カイロプラクティックのドクターとして、これまでさまざまな方の体と向かい合ってきました。体の痛みを治すには、体の仕組みをよく分かっている専門家に診てもらうのが一番だとは思いますが、忙しい現代人がしょっちゅう専門医に通うのは大変です。自分自身で治すことができれば、それが理想的なことは言うまでもありません。
もちろん、すべてが自分で治せるわけではありませんが、痛みの原因によっては簡単な体操などで症状を和らげることができます。「30分ルール」のように、生活習慣を変える工夫もいろいろとあります。
ただし、腰痛や肩こりの陰には重大な病気が隠れていることもあります。あまりにも痛みが激しいときや、いくら試しても痛みが治まらないときは、すぐに専門医に相談するようにしてください。
整形外科医・カイロプラクター、竹谷内医院院長。2000年東京慈恵会医科大学卒業。福島県立医科大学、米ナショナル健康科学大学を経て、2007年カイロプラクティックを主体とした手技療法専門のクリニック(現・竹谷内医院)を開設。福島県立医科大学では整形外科学講座に所属し、腰痛治療の第一人者である菊地臣一氏(前・福島県立医科大学長)に師事。日経Goodayで「竹谷内康修の『自分で治す!からだの痛み』」を連載。
(ライター 二村高史)
[日経Gooday 2017年5月25日付記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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