太ももの裏側やふくらはぎに、ボコボコと浮き出たような膨らみができていたり、網目状やクモの巣状に青黒い血管がうねっていたり。もしあれば、それは下肢静脈瘤の可能性が高い。
下肢静脈瘤とは、文字通り、「脚の静脈に瘤(こぶ)のように血液がたまった状態」のこと。静脈の内側には、「ハ」の字形をした弁がついている。弁は薄い膜で、血液が心臓に戻るときにだけ開き、血液の逆流を防いでいる。この弁が壊れると、血液が心臓に戻りにくくなり、血管内にたまり、下肢静脈瘤となる。そもそも脚の筋肉には、血液を心臓に押し戻す筋ポンプ作用があるが、この作用が弱いことで、弁が壊れてしまうことが多い。
三大症状は、「脚がだるい、重い、かゆい」。そのほか、こむら返りが頻繁に起きることもある。「下肢静脈瘤は、皮膚の浅いところを通る表在静脈にできることが多い。こむら返りが起こるのは、表在静脈と脚の深い部分を流れる深部静脈をつなぐ、穿通枝(せんつうし)という細い血管が機能不全になることで、筋肉がけいれんを起こすことが原因では」と慶友会つくば血管センターの岩井武尚センター長は言う。
長時間の立ち仕事や妊娠・出産、遺伝が関連
静脈の弁が壊れたり、筋ポンプ作用が弱くなったりする大きな要因は仕事での姿勢。看護師や調理師など、長時間、立ったまま仕事をする人がなりやすい。「立ったままで動かないと、脚の筋肉にある筋ポンプが作用しにくく、血液が滞留しやすい」と北青山Dクリニックの阿保義久院長は説明する。


妊娠や出産の影響もある。「出産の際に、脚の静脈に圧がかかり、弁が壊れてしまうケースが多い」(岩井センター長)。妊娠中に、太ももの裏側が重い、脚の付け根、そけい部が痛いといった症状があるときは要注意だ。「太ももやそけい部に静脈瘤ができている可能性がある。子宮がお腹の中の静脈を圧迫したり、ホルモンの影響で静脈が太く柔らかくなって弁がうまく閉じなくなって発症することがある」と岩井センター長は話す。
「長身の人は、脚の静脈が長く、心臓へ戻る距離が長いので弁に負荷がかかりやすい。また肥満の人は、脚の静脈にかかる圧が高くなりがちなため、静脈瘤を発症しやすい」(阿保院長)
□ 教師
□ 調理師
□ 看護師
□ 身長の高い人
□ 脚の長い人
□ 全く運動しない人
□ 肥満の人
遺伝も関係する。「両親ともに下肢静脈瘤があると90%、片親だけだと25~62%、両親ともにないと20%の発症率とされる」(岩井センター長)
とはいえ、下肢静脈瘤は適切な治療とセルフケアで症状を抑えられる。具体的な対策は次回以降紹介する。


(ライター 渡邉由希、構成:日経ヘルス 岡本藍)
[日経ヘルス2017年7月号の記事を再構成]