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ハローキティの工具袋 ガテン女子の招き猫となるか

日経トレンディネット

2017/6/1

日経トレンディネット

長く続いた公共事業削減のあおりで就業者数が減り、さらに高齢化によって人手不足が深刻な建設業界。産業の維持には、女性を含む建設作業従事者を増やすことが急務とされる。国土交通省と建設業界団体は2014年、女性の技術者および技能者[注]の数が5年間で当時の10万人から倍増することを目指し、行動計画を決めた。計画には、女性用トイレや更衣室の整備、仕事と家庭を両立できるような環境づくりなどへの取り組みを盛り込んでいる。

[注]建設業に従事する技術者と技能者の区別は明確ではないが、一般に、技術者は設計や測量、現場の監督などに携わる人、技能者は左官や大工など現場で働く職人を指す。

2014年の時点で、建設業に従事する女性の技術者の数は約1万人、技能者は約9万人だった。これを5年間で倍増させることを目指す(国土交通省ホームページより転載)

こうした動きを背景に、建設・土木系の仕事に従事する建設女子、ガテン女子を応援する「かわいい現場グッズ」が登場した。サンリオの人気キャラクター「ハローキティ」をあしらった工具袋だ。女性に特化した現場作業用品というと、これまでもサイズが小さめの安全帯や、ピンクを差し色にしたようなヘルメットなどの商品は存在したが、ハローキティを腰袋や釘袋、工具差しに採用したコラボ商品は世界初という。

製造元は、1977年にナイロン製の工具袋を国内で初めて製造販売した安全保護具メーカーの基陽(きよう)。作業用品に求められる丈夫さを確保したうえで、それまで無地のみだった工具袋に模様を配するなど、デザイン性も重視したラインアップに力を入れる。同社は、社長や常務を含む従業員約30人の6割以上を女性が占め、ワーキングマザー(働くママ)も多い。地元の兵庫県では、ワークライフバランス認定企業にも選ばれたそうだ。ハローキティの工具袋は「現場でおしゃれに活躍する女性を応援したい」(同社)との思いから生まれたという。

■安全帯や工具袋は職人に必須のアイテム

工具袋には、現場の職人が必要な工具を収納したうえで腰回りに付ける。多種類の工具を一度に持ち運べ、袋を身に着けた状態で作業できるので効率が良く、同時に安全性も高められる。安全帯は高所(2m以上)で作業する際に着用が義務づけられ、落下事故を防ぐためのベルトだ。

安全に作業するため、支持体と体を安全帯でつなぐ。写真は鉄筋とびの職人(画像提供:基陽)

現場作業用品というと男性ユーザーばかりを想像しがちだが、同社では製品に同封するアンケートはがきに、2年ほど前から女性ユーザーの返信が増え始めたという。「近ごろは、幕張メッセのようなイベント会場のブース設営でも、女子の職人をよく見かけますね」(広報担当 の山下典子さん)

工具袋を腰に下げた設営女子。七つ道具はカッター、ペンチ、メジャー、電動ドリルなど(画像提供:基陽)
コンサート会場の設営女子(画像提供:基陽)

■デザインだけでなく重量を4割カット

では、工具袋を女子仕様にするとどうなるのか?

商品の特徴の一つは、「かわいすぎるとヤル気が出ない」というユーザーの意見に配慮し、“かわいい”よりも“かっこいい”を目指したこと。「女子が使うからといって、パステルピンクなどでかわいくなりすぎないようにした」(山下さん)といい、ハローキティはあえて表情を出さずにヒョウ柄のシルエットで表現した。そしてもう一つ、実用面での大きなポイントが軽量化だ。通常の男性向け商品より3~4割も重量を抑えた。工具袋の使い方は従来品と変わらないが、「気持ちが変わる!」という声が寄せられたという。

ハローキティのKH工具袋シリーズ、建設女子向けには腰袋、釘袋、工具差しをラインアップ。ラチェット、モンキーレンチ、カッター、ペンチなど、普段の作業で使う道具や工具を入れる(画像提供:基陽)

■人手不足で女子高生も獲得へ

2016年4月から女性活躍推進法が施行された。男性が多い職場で女性活躍への取り組みが遅れがちな業種でも、女性の起用を促進する動きが出始めている。厚生労働省の調査(2014年)によると、女性の従業員自体が少ない業種の最たるものが建設業。近ごろは、漫画の『ドボジョ』(土木女子)が関心を呼び、「建設女子」の呼称も生まれた。大手建設会社で女性リーダー候補を育成したり、異なる会社の間でも建設女子同士で支え合うようなネットワークづくりの話題も報じられる。少しずつではあるが、新しい風が吹き始めているようだ。

「きつい、汚い、危険」の“3K”のイメージが強く、就職先としては人気の低い建設業界だが、現在は高校生の採用に躍起になっている。特に、人口の減少が進む地方では、道路の維持管理や冬の除雪を請け負う建設業の担い手不足が深刻だ。2016年7月14日付の日経新聞では、「若手不在の影響を受けて5~10年後に存続の危機を迎える企業は少なくない。女子高生にもPRしなければ」という秋田県内の建設業協会事務局長の言葉を紹介している。同県では、建設に関心を寄せる女子高生と県内の若手女性社員が懇談する「建設女子会」を開くなど、女子高生に対象を限定した企画を積極的に取り組んでいる。

■建設女子はほとんど増えていない

建設業界で働く女性の数を倍増させる計画の策定から3年が経つが、実際女性はどのくらい増えたのだろうか? 17年1月、国交省に問い合わせると、「いま現在では女性の従事者の数はほぼ横ばいの状態」との返事だった。

国土交通省建設市場整備課の担当者はこう語った。「建設業は受注業務なので、入札で仕事が取れないと会社を継続できない。そのため、必要経費を削ってでも仕事を取る、という事業者もある。人手不足とか高齢化が進んでいるといわれるが、賃金や福利厚生の面で他の産業と同水準にしない限り、女性や若者に振り向いてもらうのは難しい。国としても、17年4月から国交省が発注する公共工事には保険未加入の会社は入れない方針を打ち出し、イメージアップのための広報活動にも取り組んでいる」

「建設業で女性の就業者にフォーカスするという動きは、まだこれからといえる」と担当者。安全対策が向上し、賃金や福利厚生を含め働きやすい環境が整備され、建設女子を目指す女子高生が就職先に選びたいと思える職場になれば、おのずと男性にとっても安全で働きやすい現場になるはずだ。工具袋のハローキティは、そうした心地良さを高めた現場に女子高生を振り向かせる招き猫となるか。

(ライター 赤星千春)

[日経トレンディネット 2017年5月1日付の記事を再構成]

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