モーターと制御機器は運転席の後ろに装備されている
見えている銀色の箱はモーターを制御するパワー・エレクトロニクス機器。左下の黒色の丸いふたは急速充電用のコネクター。モーターはパワー・エレクトロニクス機器の下にあるので見えない

シャープなハンドリング、加速したければアクセル、減速したければブレーキ――この操縦感覚には覚えがある、と記憶を探る。ラジコンカーだ。電動ラジコンカーの感覚にかなり近い。ラジコンカーは実車よりもずっと軽いので、ハンドルを切るとスパッと曲がる。また、加減速も送信機のスティック1本で行う。

よく回る旋回性能、鋭い加減速、実用性ゼロの車体構成と、まさにトミーカイラZZは「乗るラジコンカー」というべき存在だ。そしてラジコンカーが楽しいように、トミーカイラZZも乗っていて楽しい。

米テスラ・モーターズの各モデルや、日産自動車の「リーフ」を初めとした市販の電気自動車もかなり一般化してきた。また、三菱自動車の「アウトランダーPHEV」やトヨタの「プリウスPHV」のようなモーターのみでも走行できるプラグイン・ハイブリッド車や、日産の「ノートe-POWER」のようにエンジンで発電し、電動モーターで走行するハイブリッド車も市販されている。だから遊園地の遊具やゴルフ場のカートなどに由来する「力のない弱々しい自動車」という電気自動車への先入観はずいぶん払拭されているのではないかと思う。電気自動車は決してパワーのない、弱々しい乗り物ではない。回転数ゼロから大トルクを発生する特性からすれば、むしろ非常に力強い乗り物なのだ。これまでは電池が重く、容量も足りなかったので、あまりパワーを食わない用途にしか使ってこなかっただけなのだ。

しかし、それでもこのようにして、電動モーターの特性をすべて「運転する楽しさ」に振り向けた車両に乗ってみると、電気自動車の可能性が単なる温室効果ガス排出削減や、省エネといった実用的価値にのみあるわけではないのがはっきりと分かる。

次の一手はラグジュアリー・スーパーカー

トミーカイラZZの価格は税込みで864万円。実際にはオプションとなる専用ボディーカバーやフロアマット、車載工具などが必要になるので一声1000万円と考えるべきだろう。

走って楽しいのは、箱根とか榛名とか六甲とかのワインディングロードだ。航続距離が短いので、その近辺の充電装置のある車庫に置いて、週末ごとに通っては走りを楽しむというのが現実的な使い方だろう。だから日本において、トミーカイラZZを十全に楽しめる環境を作れる人はさほど多くないはずだ。99台限定ということからも、メーカーのGLMとしてもトミーカイラZZが大量に売れるとは思っていないことが分かる。

それでもトミーカイラZZには大きな意義がある。電気自動車ベンチャーであるGLMが、自動車市場に参入するきっかけとなることだ。自動車産業は、世界的にメーカーがひしめき合う過酷な業界だ。そのなか、ベンチャーはまず目立ち、ブランドを確立しなくてはいけない。しかも、ブランドを確立する過程で、きちんと投資を回収し資本を蓄積し、次の車種に投資するという循環を回していく必要がある。

そのための最初の車種として、トミーカイラZZのような「徹底的に尖った特徴を持つスポーツカー」は最適なのである。世界市場全体を見回すと、お金持ちの自動車マニアは決して少なくない。マニアの嗜好に合致したスポーツカー、それも電動という極めて現代的な特徴を持つスポーツカーを出せば、少なくとも興味を示してくれる。

彼らは性能さえ良ければ価格を気にせず買ってくれるし、気に入れば口コミで宣伝もしてくれる。もちろん、各国の自動車ジャーナリズムも、半分は物珍しさであったとしても、取り上げてくれる。世界中の自動車への支出を惜しまない金満かつマニアックな顧客層にブランドが浸透すれば、トミーカイラZZは成功なのだ。ブランドが浸透すれば、次の一手を打つことでさらなる市場の攻略が可能になる。

次の一手――2017年4月18日、同社は第2弾の電気自動車「GLM G4」を国内初披露した。4人乗りながら、出力400kW(544馬力)のモーターを搭載し、最高速度は250km/h、1回の充電で400kmを走るラグジュアリー・スーパーカーだ。2019年に1台4000万円で販売を開始し、世界中に向けて1000台を販売するとしている。顧客となるのは世界中の金持ち自動車マニアと見て間違いない。日常的にフェラーリやランボルギーニを売買する層は世界にかなりの人数いるし、そんな人達にしてみれば4000万円は決して高くない。

すべて売れた場合の売り上げは400億円。成功すれば、GLMはがっちりと世界の自動車市場に食い込むことができるだろう。

GLMの“次の一手”。2017年4月18日に日本初披露となった「GLM G4」(画像:GLM)。4ドアで、すべてのドアがガルウイングという刺激的な造形のラグジュアリー・スーパーカーだ

このような市場参入の手法は、実はテスラ・モーターズがたどった道でもある。テスラはまず2008年にマニア向けの電動スポーツカー「テスラ・ロードスター」を販売して市場に参入した。テスラ・ロードスターの車体開発と製造にはロータス社が協力しており、部品の一部はロータス社のスポーツカー「ロータス・エリーゼ」から流用されている。このロードスターで市場におけるブランドを確立すると、テスラは次いで2009年に高級4ドアセダン「モデルS」、2012年に高級SUV「モデルX」を出してシェアを伸ばし、そして2016年にはより低価格のコンパクト・ラグジュアリー・セダン「モデル3」を発表した。

「最初にマニア向けの尖ったスポーツカー、次に高級車。ブランド浸透を進めつつ、徐々に安い価格帯のモデルを増やしていく」というのは、ベンチャーによる自動車市場攻略の黄金パターンなのである。

はたしてGLMは、世界市場に食い込んでいくことができるか。テスラのように大きく成長することができるか――トミー・カイラZZに乗った感触から言えば「イエス」だ。トミーカイラZZは、電気自動車の特徴を生かしつつ、スポーツカーとして大変真面目に作られている。しかし、自動車が売れるかどうかは性能だけでは決まらない。なによりもブランドイメージが物を言う。「GLMはすごい自動車を作る」というブランドを2020年に向けて構築できるかどうか。これからが正念場である。

松浦晋也
 ノンフィクション・ライター/科学技術ジャーナリスト。宇宙作家クラブ会員。1962年東京都出身。日経BP社の記者として、1988年~1992年に宇宙開発の取材に従事。その後フリーランスに。宇宙開発、情報・通信、科学技術などの分野で執筆活動を続けている。

[日経トレンディネット 2017年5月15日付の記事を再構成]

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