質感は高いが、見事なまでになにもない運転席回り

革命的な自動車設計者のコーリン・チャップマンが1957年に発表したスポーツカー「ロータス・セブン」は簡素にして高性能を発揮したことから世界中で受け入れられ、元祖のロータスが1970年代に製造を終了した後も、英ケータハム社をはじめとして製造権を得た世界中のメーカーが改良を加えた発展型を製造し続けている(これらサードパーティー製の車両を総称して「セブン」と呼ばれている)。発表後60年を経て、今も新車が手に入る希有のスポーツカーだ。

セブンは、走るために必要な装備以外、何も付いていない。オーディオもなければエアコンもない。このトミーカイラZZも、走るための装備以外は何もついてない。車としての構造はずっと進歩しているが、セブンと共通した印象がある。

これは乗れるラジコンカーだ

スポーツカー特有の低く狭い運転席に体を押し込むと、まずは起動準備だ。といっても、まずセルスターターを回してエンジンを起動するというような操作は不要。電気自動車のトミーカイラZZは、メインスイッチを入れてダッシュボードにあるセレクトのつまみを「D(ドライブ)」に合わせるだけで走り出せる状態となる。

これまた簡素を極めたかのようなダッシュボード表示。走りと関係ないものは何もついていない

電気自動車なので、操作するのはハンドルとアクセルとブレーキだけ。SUVのような着座位置の視点が高い自動車に乗り慣れていると、あまりの視線の低さに戸惑うかも知れない。が、それでも運転は非常に簡単。ハンドルを切る、アクセルを踏む、ブレーキを踏む――それだけである。車体は大変がっちりできていて、ゆがみもたわみも感じない。ハンドリングもシャープで、切れば切っただけくるりと車体が回頭する。

試乗したのが雨上がりの都内だったので大人しく走ったのだが、それでも305馬力のモーターの威力は圧倒的。信号待ちから軽くアクセルを踏んだだけで、信じられないぐらいの加速度でダッシュする。電動モーターはエンジンと異なり、回転数ゼロからほぼ最大トルクが発生するという特徴を持つ。だから、トランスミッションも不要で、アクセルを踏めば踏んだだけ一気にモーターの回転数が上がり、加速する。

開発にあたっては、この「踏んだだけ加速する」感覚の実現にかなりのノウハウが必要だったそうだ。エンジンのような振動も排気音もない。聞こえるのはモーターの発するキューンというさほど大きくない音とタイヤのロードノイズだけだ。にもかかわらず、アクセルを踏み込むと、まさに異次元の加速度が全身にかかる。

アクセルを放すと、そのまま車体は惰性で走り続ける。これは通常の電気自動車と異なる。通常、電気自動車はアクセルを放すと、モーターに発生する起電力で運動エネルギーを電気エネルギーとして回収し、バッテリーに充電する。回生ブレーキという機能で、こうすることでエネルギー効率を上げて航続距離を伸ばすのだ。だから、アクセルを放すと車体がグッと減速し、ブレーキを踏んだのと同じ状態になる。

ところが、トミーカイラZZは自然な乗り味を優先し、回生ブレーキを採用していない。そのぶん航続距離は短くなるが、「乗って自然、乗って楽しい」という操縦感覚を優先したとのこと。ちなみに満充電時の航続距離は120km程度だという。

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