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写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。6回目は外から来たリーダーのプラスとマイナスを、ゴーン氏が体験的に語ります。

外から来たリーダーのプラスとマイナス

外から来た人は、組織が危機の時、強みを発揮できる

Q ゴーンさんは日産自動車に、社外から、しかも外国から来ました。「外から来る」ということにはマイナスの部分もあったのではないかと思います。「外から来る」ということについて、どう考えますか。また、「外から来る」ことにマイナスの部分があるとすれば、どう乗り越えるべきでしょうか。

これまで、日本企業のCEOに国外から来た人が就いた事例は何件もあります。そして実際の結果を見てみると、成功しないことが大多数なのです。緊急対応的に国外から送り込まれて、結果を出せずに帰っていった人はたくさんいます。ですから、これは統計的な話ですが、まず外国人であるということが、プラスに影響するとは決して言えません。

日本企業のCEOに、他社で働いていた日本人が就任するという場合はどうでしょう。これも統計的に見ると、やはり外部から来た人のほうが、成功しづらく、失敗しやすいという結果が出ています。外部から来る人のほうが不利なのです。

では、外から来た人は、この不利さを克服することができるのか。それが問題になってきます。

まず、これは明らかなことですが、外から来た人が、会社の役職に就く場合、内部の人が就くのに比べて、明らかに弱点を多く抱えていることになります。外国人であれば、日本語が分からないという弱点を持っています。外国人でなくても、社外から来た人は、その会社の社風や習慣を知らないという弱点を持っています。会議のやり方も、前に所属していた企業とは違うでしょうから、勝手が分かりません。マイナスだらけのスタートとなるわけです。

けれども、より重要なことですが、外から来たということが、逆にプラスに働く場合もあります。それは、「トラブルを抱えている会社にやってきて、役職に就く」という場合です。

問題を抱えている会社の、その問題の多くは、会社のなかに原因があるものです。例えば、「これまで、上層部が決断すべき時に何も決断してこなかったことが、今の業績不振を招いているのだ」という共通認識が会社のなかにあるとします。その場合、外から来た人はその問題には何も関係していません。従業員達が、外から来た人に「この惨状が起きているのは、あなたのせいだ」とは誰も言いませんよね。

これが外から来た人が持っている強みの1つです。外から来た人は、できるかぎり強みとなる部分を最大限に活かすことを考えるべきだと思います。わずかな力を大きな動きに変える「てこ」のようにです。

外国人がCEOに就任することのリスクの高さも認識しておかねばならない

Q 日産自動車におけるゴーンさんのCEO就任以降、日本企業でも外国人をCEOに迎える事例が増えています。外国人をCEOに迎えるということについて、どのように考えていますか。

日本企業においては、日本人がCEOに就任するのが最もシンプルな方法です。同様に、フランス企業においてはフランス人がCEOに就任するのが最もシンプルな方法です。本来は、その国の企業のCEOにその国の出身者が就任するというのは、明らかにシンプルで、最善の策であるということを、まず忘れてはなりません。

しかしながら、日産自動車における私のように、CEOが外国人であるという場合が生じます。これは、「簡単な方法ではない。むしろリスクの高い複雑な手段である」と認識しておくべきです。

では、どうしてわざわざ高いリスクをとってまで、外国人がCEOに就任するのか。それは、CEOに就任できる自国の人がいないからにほかなりません。もし、日本企業に日本人のCEO候補と外国人のCEO候補がいたとすれば、私は日本人の候補がCEOに就任することを支持することでしょう。その、最もシンプルな方法をとることができないから、外国人がCEOに選ばれるのです。

外国人がその企業のCEOに就任するというのは、そうしなければならない理由があり、また、それはむずかしいことであると認識しなければなりません。それは、例えば「数多くの変革を起こさなければならないが、国内の人物がCEOに就任してもそれは望めない。まったく経験や背景の異なる外国人をCEOに据える必要がどうしてもある」といったことです。

私の場合、1990年代後半の日産自動車がアウトサイダーを求めており、かつ、日本人ではそのアウトサイダーの役割を果たすのはむずかしいと考えたからこそ、つまり、日本人が新たに日産自動車を率いるという選択肢がなかったからこそ、呼ばれたのだと思います。アウトサイダーであり、かつ外国人であるというのは、いわば二重の不利な点だったわけですが、そうしなければならなかったわけです。

ほかの企業においても、アウトサイダーあるいは外国人をCEOに選ぶというのはリスクが高いということは認識しなければならないと思います。とりわけ、CEOというトップの役職は、その企業のシンボルとなる存在です。トップが周囲からの期待どおりとなっていれば問題ありませんが、周囲からの期待に見合っていないと「どうして、あの人をトップに据えたのだろう」といった話になります。トップが選ばれるのは、かくもハードルの高いことなのです。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載

※隔週火曜更新です。次回は6月27日(火)の予定です。

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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